アンハッピー・ウエディング〜前編〜
どうする?俺…。このまま三本目も観るか?

トラウマが増えそうで怖いんだよ。

押し入れに加えて、冷蔵庫まで開けられなくなりそう。 

くそっ。たかが押し入れと冷蔵庫、なんて馬鹿にしてた奴、誰だっけ?ぶっ飛ばしてやるよそんな奴。

…俺だよ。

心の中で一人ノリツッコミをして、そのあまりの下らなさに溜め息が出そうになった。

一方寿々花さんは、そんな俺の内心の葛藤など知る由もなく。

「こっちも観よーっと」 

早速、『冷蔵庫の中』を視聴しようとしている。

ちょ、ちょ、ちょっと待て。早まるな。

俺のライフはもうゼロよ。

「ちょ、寿々花さんちょっと待って」

「え、何で?」

「何でって、その…。…怖くないのか?」

「何が?冷蔵庫?」

「…うん、冷蔵庫」

冷蔵庫が怖いって、一体何の会話をしてるんだよ俺達は。

「今度はどんな子が出てくるのかなぁって、楽しみだよ」

うきうきしながらそう言われた。

…そんな、新しいお友達みたいな…。

「早く観よー」

「ちょっ…まっ…。そう、そろそろ時間…結構良い時間だからさ、もう」

何せ、昼から立て続けに映画二本も観てるから。

日が暮れかけてるんだよ、もう。

夕飯作らなきゃいけないからな、そろそろ。洗濯物も取り込まないと。

「せめて明日に。もう良い時間だから、続きは明日に…」

「じゃ、再生始めるねー」

「おい。何なんだよその行動力…!?」

いつもなら、「そっかー」って納得するところだろ?

何があんたを冷蔵庫の中に突き動かしてるんだよ。

楽しいのか?そんなに面白かったのか?ホラー映画。

あんなにそんな趣味があったとは。知らなかったよ。

ところで、俺離脱して良い?

一刻も早く、この自宅ホラー映画館から逃げたい。

しかし、そうは行かなかった。

「あっ、始まったよ。楽しみだね、悠理君」

キラキラした目で、そんな風に言われたら。

俺だけビビって、逃げ出す訳にはいかないじゃないか。

「…そうだな」

俺は仕方なく、掠れた声でそう呟いた。

諦めろ。俺はもう逃げられない。冷蔵庫の中からな。

でもさ、ほら。まだ希望を捨てるべきじゃないかもしれない。

同じ製作者で同じシリーズだからって、怖さも同じとは限らないじゃないか。

シリーズ一作目は面白かったのに、続編になるとつまらなかった、なんて映画はよくあるだろ?

それと同じでさ。

『オシイレノタタリ』は怖かったけど、こっちの『冷蔵庫の中』はそうでもない…みたいな。

その可能性が、まだ残ってるかもしれないじゃないか。

そう、きっとそうに違いない。

大体、冷蔵庫の中だぜ?何があるんだよ、冷蔵庫の中に。

牛乳や味噌や卵の隙間から、幽霊っぽいものが出てくる間抜けな姿を想像して。

よし、これなら大丈夫そうだと、自分に言い聞かせた。

…の、だが。



そんな俺の余裕は、案の定、一時間と持たずに撃沈した。
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