アンハッピー・ウエディング〜前編〜
二時間後。

「あ、終わったー。面白かったね、悠理君」

「…」

「まさか、冷蔵庫の中からあんなモノが出てくるなんて。うちの冷蔵庫にも居ないかなー」

やめろ。開けようとするな。

俺、もう無理。

あと三日は、冷蔵庫を開けられない。

トラウマ映画だよ、これは。

どうしてくれんの?これでもう、毎日冷蔵庫を開ける度にビビらなきゃいけなくなった。

今日もこれから夕食作らなきゃいけないのに、どうしてくれんの?

…正直にぶっちゃけて良い?

…一人で風呂入るのも怖い。

だからやめとけって言ったんだよ…。押し入れに続いて、冷蔵庫まで…。

俺、このシリーズ駄目だ。

雛堂、俺駄目だったよ。

それなのに、寿々花さんは。

「面白かったね、悠理君。映画館のおっきい画面で観たら、きっともっと面白かっただろうなー」

こんな調子で、うきうきと感想を語っているから。

俺だけが情けないみたいになってる。

何でこのお嬢様、異様にホラー耐性高いんだよ。

「…?悠理君、さっきからどうしたの?何だか腰が抜けたみたいになってるよ」

「…」

みたい、じゃなくて腰抜けてるんだよ。

どうやってこの場から立てば良いのか。

…とりあえず。

「なぁ、寿々花さん。頼みがあるんだが」

「なぁに?悠理君が私に頼み事なんて、珍しいね」

そうだな。

「…今日の夕飯、出前で良い?」

冷蔵庫を開けて、自炊をする勇気と気力がなかった。

我ながら最高に情けないけど、今日だけは許して欲しい。

「…?よく分かんないけど、良いよー」

寿々花さんが、そういうこと気にしない人で良かった。

「悠理君、涙目になってるけど大丈夫?」

「…大丈夫じゃな…。…大丈夫だよ…」

「誰かに泣かされたの?」

誰か?…そうだな。

強いて言うなら、押し入れと冷蔵庫に泣かされたよ。

「よしよし、可哀想に。悠理君をいじめる悪い人は、私が怒ってあげるからね。よしよし」

そう言って、寿々花さんは子供にするみたいに、俺の頭を撫でてきた。

やめろって。情けなさが加速する。

でも、その気遣いは有り難かった。

出来ればその気遣い、映画を観る前に発揮して欲しかったな。

ホラー映画三作イッキ見は、さすがにキツかったよ‥
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