アンハッピー・ウエディング〜前編〜
桜咲く頃の章2
さて、翌日。

無月院本家のお嬢さんと暮らす、二日目の朝である。

俺はいつも通り、朝6時に目を覚ました。

目覚まし時計の類はセットしていなかったが、体内時計で目が覚めてしまう。

今日も忙しくなりそうだ。

キッチンに立って、まずは朝ご飯を作ろう…と思ったのだが。

…果たしてあのお嬢さん、朝ご飯は何を食べるのだろう?

朝は和食派か洋食派か、それだけでも昨日、聞いておけば良かった。

俺の実家は、ずっと朝は和食派で…ご飯と味噌汁と漬物、が定番だったんだが…。

食パンとか、コーンフレーク食べる家庭も多いし。

そもそも、朝ご飯を食べない層も一定数居ると記憶している。

朝はきちんと食べた方が良いと思うけどな、俺は…。

どうしようかと少し考えて。

結局いつも通りご飯を炊き、味噌汁を作り、大根の糠漬けを切って食卓に並べた。

この大根の糠漬けは、スーパーで買ってきたものではない。

自家製の糠床で、自分で漬けたものである。

え?貧乏臭い?所帯染みてる?

美味いから良いんだよ。

もしお嬢さんが洋食じゃないと嫌だと言ったら、そのときはまぁ…コンビニに走るよ。

それ以前にあの人、起きてこないんだが。

昨日散々昼寝してたのに、朝も起きるの遅いのか?

寝過ぎだよ。いくらなんでも。

まぁ、昨日の…部屋の散らかり具合から察するに。

恐らく、とんでもなく自堕落な性格をしているのだろう。

今は春休みだから良いけど、新学期始まったらどうするんだろう。

もしかして、朝彼女を起こすのも俺の仕事なんだろうか。

ルームメイトとは言え、女性の寝室にズケズケ入っていって叩き起こすのは、気が引けるんだが?

出来れば自分で起きてきて欲しい。

そこで、俺はお嬢さんが自然に目を覚ますまで、放置して待つことにした。

荷物の片付けや、昨日手が回らなかった部屋の掃除などをしながら、待つこと数時間。

「おはよ〜…」

「あぁ。おはよう…」

眠い目をこすりながら、お嬢さんがようやく起床。

一応、ちゃんと午前中に起きてきたな。

あんまり起きてこないから、もう昼過ぎまで寝てんのかと思った。

それよりも。

お嬢さんの格好を見て、俺は思わず噴き出しそうになった。

「何なんだ。その格好は…?」

「ふぇ?」

ふぇ、じゃなくて。

お嬢さんは、寝間着のままだった。

自分の部屋で着替えてから降りてこいよ、最低限の身だしなみだろ…と思ったが、それは百歩譲って良しとしよう。

昨日まで、このデカい家で一人暮らしだったんだもんな。

寝間着姿でうろうろしても、誰にも見られないんだから、咎められることもなかったのだろう。

だから百歩譲って、寝間着姿で降りてくるのは良い。

だが、そのぴっちぴちのジャージ姿は何なんだ?
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