アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「…何すんの?習い事って…」

「えーと…。よく聞くのが、ピアノとかお花とか、バレエとか…」

あっ、成程。そういうことか。

女子部の生徒は、皆寿々花さんに負けず劣らず、お嬢様なんだった。

ピアノ、花、バレエ…いかにもお嬢様のお稽古事って感じ。

「外国語を習いに行ってる子もいるよ」

「…英会話教室とか?」

「ううん。フランス語とかイタリア語とか。学校で習わない言葉」

フランス語。イタリア語だって。

めっちゃお洒落なんだけど。

やべ…。フランス語なんて俺、メルシーくらいしか分からねぇや…。

イタリア語なんてもっと分からない。…ピザが美味しい国だよな?

「長期休みのときは、ほとんどの子が海外旅行に行ったり、国内の別荘に行ったり…。短期の海外留学に行く子もいるよ」

「…」

「まぁ、私は行ったことないんだけどねー」

…そういうことだったのか。

女子部の生徒に、宿題や課題が少ないのはそれが理由か。

女子生徒は毎日、お嬢様のお稽古事に忙しいから。

ゴールデンウィークとか冬休みみたいな長期休みのときは、優雅に海外旅行や短期留学に忙しいから。

その為、宿題が極端に少ないんだな。

そういうことだったか…。さすがお嬢様学校。スケールが違う。

同じ学校のはずなのに、男子部でそんな話は聞いたことがないぞ。

男子生徒には、ガッツリ宿題出されてるしな。

「お前らには海外旅行の予定なんかないだろ?大人しく家で宿題やってろ」ってことだな?そうなんだな?

畜生。どうせ俺は海外どころか、国内旅行の経験すら乏しいよ。

旅行の思い出って言ったら…精々、修学旅行くらいか?

安っぽい男で悪かったな。

「…成程、あんたが家で勉強してるの見たことがない理由が分かったよ」

「ほぇ?」

「でも、それとこれとは話が別だからな」

宿題が出てない=勉強しなくて良い、って訳じゃないからな。

「あんたは他の生徒みたいに、お稽古事もやってないし。海外旅行にも行ってないんだから。自主勉くらいした方が良いんじゃないか?」

「…何で?」

何でって…そりゃあ…。

「だって…もうすぐ試験だろ?あんたは忘れてるんだろうが、ゴールデンウィークが終わったら、そろそろ中間試験なんだぞ」

「おぉ、そんな先のことまで覚えてるんだね。悠理君、凄い」

あんたは何で忘れてるんだよ。二年生だろうが。

それとも優雅な女子部の生徒は、お稽古事に忙しくて、中間試験なんて二の次なのか?

「ちょっとくらい勉強しようぜ。無月院家のお嬢様が成績劣等生じゃ、格好もつかんだろ?」

「…私は別に、そんなことは気にしないけど…」

そうか。 

あんたが気にしなくても、あんたの周囲の人間は気にしてると思うぞ。

「俺だって大して優秀な訳じゃないし、裏口入学した身分だから、偉そうには言えないけど…。学生たる者、本分は勉強なんだからな」

「…」

「学生であるうちは、ちっとは真面目に勉強するべきだと思うんだが。どうだ?」

寿々花さんは、珍種の動物でも見るかのような目で俺を見ていた。
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