アンハッピー・ウエディング〜前編〜
しかし、家庭科の授業で実技試験ね。

…調理学校じゃないんだから、定期試験で調理の実技なんて、ちょっとハードル高いんじゃね?

いくらお嬢様学校と言えど…。

「悠理君にお願い事聞いて欲しくて、頑張ったのに。肝心なところで失敗して…」

「…寿々花さん…」

「私、やっぱり駄目だった…。…椿姫お姉様だったらきっと、私より上手に出来たんだろうな…」

…椿姫お嬢様じゃなくても、大抵の人はあんたより上手に卵焼き作れると思うぞ。

それよりも。

「そんな泣きそうな顔で落ち込むなよ…」

「だって…」

「あんたが頑張ってたのは、よく分かってるよ。よく頑張ったよ寿々花さんは」

家庭科の実技試験で赤点だったのは、確かに残念だけど。

その実技試験のせいで、去年より成績が下がってしまったのも。

だけど、それが何だって言うんだ。
 
例え家庭科で0点だとしても、それでも総合得点は俺より遥かに上だからな。

偉そうに上から目線でものを言える立場じゃないんだよ、俺は。

五教科で満点を取ってる時点で、充分凄いから。

「結果も大事だけど、それより俺は、寿々花さんが頑張ってた過程を褒めたいね」

「成績、上がらなかったのに?」

「そうだな。上がらなかったけど…実質現状維持みたいなもんだしなぁ」

家庭科なんて、あくまで副教科だろ?

家庭科を侮るつもりはないけど…。五教科に比べたら、やっぱり優先度は低い。

だからこそ、ランキング表にも五教科の総合得点が載っていたんだ。

あのランキング表に、家庭科の試験の得点まで載ってたら…。

あまりの落差に、度肝を抜かれていただろうな。

数学100点、英語100点、地理100点…家庭科0点…0点!?みたいな。

多分、印刷ミスを疑うと思う。

「お願い事…。聞いて欲しかったのに…」

…そんな落ち込むなよ。

「大丈夫だよ。お願い事は聞いてやるから」

「…え?」

寿々花さんは、ようやく暗い顔を上げた。

「どっちみち、成績が上がってようと下がってようと、ご褒美はあげるつもりでいたんだよ」

「え…。何で?」

「だって寿々花さん、ずっと頑張ってただろ?結果も大事だけど、今回は過程を評価したい。さっきも言っただろ?」

あれだけだらしなく、毎日遊んでばかりだった寿々花お嬢さんが。

今回の試験では、あんなに頑張って試験勉強してたんだぞ?

まぁ…勉強してなくても、普通に百点満点取ってそうだけど…。

あんなに頑張ってる姿を見せられたら、そりゃ褒めるわ。

それに俺も、昔経験があるからな。

漢字テストの話。前も言っただろ?

百点取ったらご褒美もらう約束して、頑張ったけど一問間違えて。

今の寿々花さんみたいに、半泣きで落ち込んでたけど。

「頑張ったから」って、結局ご褒美もらった。

勿論、頑張ってさえいれば結果なんてどうでも良い、とは言わねぇよ?

約束は約束だもんな。いくら頑張っても、約束の点数に届かなかったら、ご褒美は次回にお預け…という家もあるだろう。

でも、うちは今回は、結果より過程を優先するスタンスなので。

そうすることで、次回以降の定期試験で、寿々花さんのモチベーションを維持する。

頑張ったのに何のご褒美もなかったら、誰だってやる気を失うだろ?
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