アンハッピー・ウエディング〜前編〜
これまで、寿々花さんの誕生日を祝ってくれる人なんて、ろくに居なかったんだろうな。

「…あんたの家には、誕生日を祝う習慣がないのか?」

めちゃくちゃ稀だとは思うけど、そういう家もあるだろう。

誕生日だからって、特別なことは何もしない家庭。

無月院家はそうなのか?

…しかし。

「ううん…。椿姫お姉様と、それから無月院家当主の誕生日には…毎年親族を集めて、宴会やパーティーを開いてるよ」

…そういや、そんな集まりが毎年開かれてたな。

分家の下っ端のうちは、招待すらされてなかったけどな。

「でも…私の誕生日は誰も、何も…。…皆忘れちゃってて」

「…」

「だから、私もお誕生日のお祝いしてみたい。…駄目かな?やっぱり贅沢かな?」

…その程度で贅沢だったら、世の中の子供達は皆、贅沢三昧ってことになるな。

「そんな訳ないだろ。…分かった、誕生日祝いだな」

「…!良いの?」

「良いよ」

「やったー」

寿々花さんは喜んで、ようやく玄関から立ち上がった。

よし、それで良い。

…誕生日祝いくらい、試験で満点取らなくても、いくらでもしてやるのに。

「ありがとう、悠理君。嬉しい」

「良かったな。…それから、今日の夕飯はご褒美に、オムライスにハンバーグつけてやるよ」

「…!凄い、途方も無い贅沢だ…!」

まるで、金塊でも目にしたかのような反応。

な?やっぱりハンバーグオムライスにして正解だったろ?

子供舌だから。

「悠理君ほど料理が上手だったら、家庭科の試験も満点取れただろうなー」

「…男子部には、家庭科の実技試験なんてないから」

「そっかー。残念だ」

「…」

いくら料理が苦手でも、いくらなんでも家庭科室を爆破する生徒は…あんた以外いないんじゃないの?

頼むから、あんたは台所に立ってくれるなよ。

帰ってきたら家が炎上していた…なんて光景を拝むのは御免だからな。
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