アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「ふむ…。女の子だからなー。自分、女の子の趣味はよく分からんな。男友達にプレゼント渡すのとは、訳が違うだろ?」

「そうなのか?プレゼントなんて男女平等だと思ってたけど…」

「そんなことないぜ。例えば、星見の兄さんに誕生日プレゼント渡すとしたら、自分は雑貨屋で激辛カップ焼きそばと、鼻メガネを買ってあげるけどさー」

俺、あんたに何か悪いことでもしたっけ?

「女の子相手じゃ、そういう訳にもいかんだろ?」

俺相手でも遠慮して欲しかったな。

「まぁ…そうだな…」

「あ、でもホラー映画好きだって言ってたし、ホラー映画のDVD買ってあげたら?」

成程、その手があったか。

でもそんなものをプレゼントしたら、俺はしょっちゅう、寿々花さんのホラー映画鑑賞会に付き合わされる羽目になるのでは?

それは嫌なんだが。

まだトラウマなんだからな、俺。

押し入れと冷蔵庫と電子レンジを開ける度に、何か出てくるんじゃないかとビビってる。

あの映画の罪は重い。

それはともかく。

「…乙無、あんたはどう思う?」

聞いてるよな?さっきから黙ってるが。

「誕生日プレゼントですか。人間は生まれた日を祝福するんですね。人間の生は、この穢れた世界に生まれ落ちた不幸の始まりだというのに…。そんな忌まわしい象徴の誕生日を祝うなんて、人間は変わってますね」

あー、うん。そういうのは良いから。

「僕はむしろ、生まれた日よりも死んだ日を祝福するべきだと思います。この世のあらゆる不幸、不平等の全てから、魂を解放することを許された日…。人間が真に祝福するべきなのは、その人の命日だと思うんですよね」

「そうか。でも、死んだらケーキ食べられないからな。意味ないんだよ」

「やれやれ。これだから人間は…。世俗的な欲求にまみれていますね」

クレープと桜餅を貪り食ってた奴が、何だって?
< 227 / 505 >

この作品をシェア

pagetop