アンハッピー・ウエディング〜前編〜
広々としたパーゴラ付き中庭に到着し、早速水やりを始めた。

ちゃんと散水ホースがあって、それを使って、花壇に水をあげた。

凄いな、便利な道具があって。

さすが新校舎。素晴らしい設備。

これが旧校舎だったら、間違いなく、バケツに水を汲んで運んで、じょうろで水やりさせられるところだっただろうな。

まぁ、そもそも旧校舎に花壇はないから、その必要もないけど。

そして、水やりをしている間。

「このお花はラ・フランスといって、モダンローズの代表的な種類なんですよ」

「あ、そうですか…」

「こちらに咲いているのはオールドローズの一種で、ジャックカルティエと言うんです」

「…はい…」

「オールドローズは香りが強い品種が多くて、こんな風に花びらが折り重なってるのが特徴なんです。上品で素敵だと思いませんか?」

「…そうですね…」

「それから、こちらに咲いているのがツツジで…。外国ではアザレアと呼ばれてるんですけど、ツツジと呼ぶ方が可愛らしいと思いません?」

「…はぁ…」

ずっと、楽しそうに花のうんちくを語ってくれてる。

さすが、園芸委員の委員長を務めるだけのことはある。

花に対する造詣が深い。

折角うんちくを披露してくれてるのに、気の利いた返事が出来ない自分が情けない。

花のことはよく知らないんだよ。

俺がまともに花を育てたのは、小学校低学年のとき植えた朝顔が最後だったな。

そうだというのに。

「悠理さん、お花が好きなんですか?」

にっこりと微笑んで、小花衣委員長がそう聞いてきた。

「え、な、何でですか?」

「だって、男性なのに、園芸委員に立候補されるくらいですから。さぞやお花が好きでいらっしゃるんだろうと思って」
 
「…」

何か誤解しているようだが。

俺は別に、自分から望んで園芸委員に立候補した訳じゃない。

男子部はひとクラスの人数が少ないから、誰もが何かしらの委員にならなきゃいけないんだよ。

それであみだくじを引いて、たまたま俺が園芸委員を引き当ててしまったから、今ここにいるのであって…。

何も、ガーデニングが好きだから園芸委員に立候補した訳ではない。

…のだが、その辺の事情を小花衣先輩に説明するのは、何となく憚られた。

こんな楽しそうに花のうんちくを喋ってる人に、「いえ、花に興味はありません」なんて言えないじゃないか。

「えーっと…好きって言うか…その、ガーデニングに興味があって」

俺はしどろもどろになりながら、思ってもないことを口にした。

嘘です。全然興味はありません。

しかし。

「まぁ、そうなんですか。それは良かった。私も、お花の世話をするのは大好きなんです」

「…」

「お花が大好きな方とペアを組むことが出来て、嬉しいです。楽しい一年になりそうですね」

「…そうですね」

小花衣先輩があまりに嬉しそうだから、とても本当のことなんて言えなかった。

ある意味、誘導尋問じゃね?
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