アンハッピー・ウエディング〜前編〜
しかし、寿々花さんはそんなことは全く気にせず。

「ケーキ、がぶってして良い?」

キラキラした目で、そう聞いてきた。

「…顔が生クリームでべったべたになるから、フォークを使って食べなさい」

「そっかー。駄目だったかー…」

顔中生クリームまみれにされても困るからな。

ちゃんとフォークを使って食べなさい。

「ちょっと待て。今切り分けるから」

先にろうそくを全部外して、ケーキを一切れ、大ぶりにカット。

それを寿々花さんの取皿に入れて、彼女の前に出した。

ただでさえ形が崩れたケーキなのに、カットが下手だから、余計ぐちゃっとなってしまった。

生クリームは雪雪崩のごとく崩れ、大量に乗せたいちごも大半が落下。

うーん。事故現場。

「…見た目が悪くて恐縮だけど、はい、どうぞ」

「わーい。…もぐもぐ」

寿々花お嬢さんは、念願のケーキを口いっぱいに頬張った。

見た目は非常に残念なケーキだが…味のほどはどうだろう?

「…どうだ?やっぱりいまいち?」

「もぐもぐ。ほいひーよ。もぐもぐ」

…一心不乱に食べてる。

美味しいのか?美味しいってことだよな?

良かった。

下手くそだけど、頑張って用意した甲斐がある。

「もぐもぐ…。…ごくん。これすっごく美味しいよ、悠理君」

「そ、そうか?手抜きだから、そんなに喜ばれると申し訳なくなるんだけど…」

「悠理君も食べて」

「いや、これは寿々花お嬢さんのだから…」

俺は遠慮しようと思ってたんだが?

…まぁ、良いか。俺も自分の作ったケーキの味が気になるし。

さすがの寿々花さんも、ワンホール一人で食べきることは出来ないだろうし。

じゃあ、小さめにカットして…少しもらってみようかな。

「…もぐ」

「どう?どう?美味しいでしょ?」

「…ふむ…」

こんな味なのか。成程…。

美味しいんだよ、確かに。市販品を使ってるだけあって、決して不味くはない。

不味くはないけど…寿々花さんが大袈裟に言うように、「美味しい!」って感じじゃないな。

スポンジケーキはパサついてるし、絞るだけの生クリームは甘ったるくて、くどい味がする…気がする。

こんなものなのだろうか。

生クリームは甘ったるいけど、いちごがちょっと酸っぱめなので、丁度良いかもしれない。

けど、良いのはそれだけ。

特段美味しいって感じでもないし、見た目は酷いし…。

…やっぱり、タルトでも良いから、ケーキ屋で買ってくるべきだったかなぁ。

慣れないことはするもんじゃないな、と身に沁みて分かった。

…の、だが。

「もぐもぐ。美味しい。お腹いっぱいなんだけど、まだ食べたい。もぐもぐ」

寿々花さんだけが、夢中でケーキを頬張っていた。

…本人が嬉しそうにしてるから、まぁいっか。

一番大切なのは、誕生日を迎える本人が喜んでるかどうかだよな。

気持ちが大事だって、小花衣先輩も言ってたし。

3割引きのコンビニスイーツのケーキだって、下手くそな雪雪崩ケーキでも…寿々花さんが喜んでるなら、それで御の字。

…でも、やっぱり申し訳ない気がするから。

今度、予約し直して、ケーキ屋のデコレーションケーキを買ってくるよ。
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