アンハッピー・ウエディング〜前編〜
さて、ケーキの後は。

「けぷっ。まだ食べたいけど、お腹いっぱいで食べられないや。…けぷっ」

「無理するなよ。別に、ケーキは明日でも食べられるんだから」 

「うぬぬ…。口惜しい…」

大丈夫だよ。ケーキは逃げない。

「冷蔵庫に保管しておいてやるから。残りは明日食べろよ。な?」
 
「でも冷蔵庫に入れておいたら、あの化け物が勝手に食べちゃうかも」

リビングのテレビの画面を指差して、寿々花さんが言った。

恐ろしいことを言うんじゃない。

やめろって。

思い出さないようにしてたんだから、言わないでくれよ。

「食べ過ぎて、後で具合悪くなったら困るだろ?」

「うーん。…じゃあ、残りは明日食べる」

「よし、そうしろ」

ケーキの他にも、夕飯の残り物が結構あるから。

明日のお弁当は、今日のご馳走の余りだな。

豪華なお弁当になりそうだ。

「はー、美味しかった。幸せだったなぁ。今日はもう、何も思い残すことないや…」

そう言って、寿々花さんは幸せそうな顔でダイニングテーブルに突っ伏した。

「むにゃむにゃ。お腹いっぱい食べたら、何だか眠たく…」

「おい、待て。寝るな。まだ終わってないだろ」

「…?何が?」

何が、じゃないんだよ。

全く…。ご馳走だけ食べて満足してんな。

「誕生日プレゼント。まだ渡してないだろ?」

寝落ちするのは良いけど、プレゼントを受け取ってからにしてくれ。

それから、歯磨きも忘れるなよ。

歯磨きせずに寝たら、虫歯になるぞ。

「プレゼント…?さっきもらったよ。ご馳走とケーキ」

きょとんと首を傾げるス寿々花さん。

「いや、さっきのは別だよ…」

誕生日ケーキは、誕生日プレゼントのうちに入るのか?

それはそれ、これはこれだろ?

「一応、色々考えて用意したんだから…。受け取ってくれよ」

「何?何々?」

俺は、キッチンの戸棚の中に隠しておいたプレゼントを取り出した。

家が広いから、隠し場所には困らないよな。

えーと…まずはこれ。

「リクエストがあった、シャボン玉セットだ」

「…!」

欲しいって言ってたからな。シャボン玉の玩具。

色々調べて、買ってきたんだよ。

最近のシャボン玉って、色んな種類があるんだな。

シャボン玉って言ったら、俺、あのストローみたいな奴しか知らなかった。

あの、駄菓子屋とかで百円で売ってるオーソドックスなアレな。

でも最近は、電動のシャボン玉の玩具なんかあるらしくてさ。

普通のシャボン玉とどっちが良いんだろうなと思って、悩んだんだけど…。

結局、どっちも買ったよ。

安いもんだったから、別に良いかなって。
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