アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「家出じゃないなら…何でスーツケースが必要なんだ?」

「旅行だよ、悠理君。お姉様がチケット送ってくれたでしょ?」

「あぁ、ハムスターランド旅行か…」

旅行に行くなら、スーツケースは必要だよな。

それで探してた訳ね。納得した。

「そういうことなら、俺が探すから…。ちょっと退いてくれ」

「うん、分かったー」

寿々花さんは四つん這いで、ひょこひょこと押し入れから出てきた。

お嬢様ともあろう者が、押し入れに潜り込むんじゃない。

そういうことは、俺に頼めよ。

寿々花さんと入れ違いで、俺は暗い押し入れに顔を突っ込んでみた。

…暗くてよく見えないけど。

「スーツケース…っぽいものは見当たらないな…」

ガラクタばっか入ってて、スーツケースらしいものは見えない。

他の押し入れに入れてるんじゃないか?

この家、収納スペースが無駄に広いから。

しまうところが多いのって有り難いけど、収納が充実すればするほど、何処に片付けたのか分からなくなる。

これってあるあるじゃね?

俺がちゃんと管理してないのが悪いんだけど。

「スーツケースって、そこそこ大きいものだからな…。ここじゃなくて、廊下の物入れとか」

「そうなのかな?もう覚えてないや」

あんたはそうだろうな。

廊下に出て、物置きの引き戸を開ける。

少しごそごそと探したら、すぐに見つけたよ。

「あぁ、あった。これだろ?」

「あ、本当だ。悠理君、凄い。すぐ見つけるね」

「いや、別に…」

「名探偵悠理君だ」

…あんたが自分の荷物の場所、覚えてなかっただけだろ。

案の定、廊下の物入れに入っていた。

しかも一種類じゃない。大中小、三つの種類のスーツケースが埃を被って並んでいた。

小さいのは日帰り旅行用ってところか?

大きい方のスーツケースは…一週間分くらいの荷物を余裕で持っていけそう。

海外旅行用っぽいな。

こういうスーツケースを持ってるという点は、腐ってもお嬢様って感じだな。

「で、どれにするんだ?一泊二日だから…一番小さいのか、この中くらいの奴で充分と思うけど」

そんなにたくさん荷物ないだろ。

何度か乗り継ぎが必要とはいえ、一応電車で行ける距離だし。

「悠理君は、自分のスーツケース持ってるの?」

と、寿々花さんが尋ねた。

…俺?

何で俺の話が出てくるんだ?

「えっと…いや…。一応持ってるけど、俺のは安物だから…」

「そっか。じゃあ大きいのにしようよ。悠理君の荷物も一緒に詰めて。そうしたら一個で済むよ」

「…??」

「おっきいスーツケース〜」

「あ、おいちょっと待て…。俺が出すから、そこ押さえといてくれ」

「うん、分かったー」

…何だかよく分からないけど。

この、一番大きいスーツケースを出せば良い…んだよな?
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