アンハッピー・ウエディング〜前編〜
スーツケースの他にも。

「ねぇねぇ、悠理君。ハムスターランドに行ったら、何して遊ぼうか?」

夕食のとき。

うきうきわくわくと、寿々花さんが尋ねてきた。

…何して遊ぼうか、って…。

「俺も行ったことないから、よく知らないけど…。なんか、色々アトラクションがあるんだろ?」

「あとらくしょん…。…メリーゴーランドとか?」

…そんなのあるのか?

ハムスターランドと言えば、いつも派手なパレードをやってるような印象が…。

「凄くおっきい遊園地なんでしょ?」

「そうらしいな…。ガイドブックとか売ってるの見たことがあるよ」

「ガイドブックなんてあるんだー」

冷静に考えると、遊園地のガイドブックが存在するって凄いよな。

何が載ってるんだろう。園内の何処そこにこんなアトラクションがあって、何処そこにこんなレストランがあって…みたいな?

ハムスターランド初心者には、必須アイテムだったりする?

「良かったら、明日にでも本屋に行って買ってこようか?ガイドブック」

「え、良いの?」

「良いよ」

別に、そんなに高いものじゃないし。

一回の旅行の為だけに、わざわざガイドブック買うなんて勿体ない…と思われるかも知れないが。

一回の旅行だからこそ、妥協するのは勿体ないだろう?

それに、寿々花さんの場合、優待チケットで遊びに行く訳で。

入園料とかホテル代は無料だから。

それを思えば、ガイドブック代くらい安いもんだろ。

折角椿姫お嬢さんが、寿々花さんの為にってチケット送ってくれたんだから、妥協せずに楽しんでこいよ。

「あ、でも…」

「?なぁに」

「一緒に行く人…。一緒に行く人も、ハムスターランドは初めてなのか?もし何度か行ったことのある人と一緒なら、ガイドブックがなくても、その人がガイドしてくれるんじゃないか?」

寿々花さんの同級生なら、いるんじゃないか?

ハムスターランドくらい、自分の庭のようなものだわ。って人。

羨ましいよな。そんな人。

「うーん…。悠理君って、ハムスターランド初めてなの?」

…何で俺に聞くんだ?

俺は関係ないだろ?今。

「…行ったことないけど」

「そっか。じゃあ一緒に行く人も初めてだから、ガイドブック必要かも」

「…そうか…」

じゃ、明日本屋に寄って買ってくるよ。

…あれ?

…なんか俺、凄く嫌な予感がするんだけど。

受け入れなきゃならない現実から、必死に目を逸らしてるような気がする。

…きっと気の所為だな。うん。

俺の考え過ぎだよ、きっと。
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