アンハッピー・ウエディング〜前編〜
しかし、夕食後の片付けをしていたところ。

「悠理君、悠理君。ねぇねぇ」

皿洗いをしている俺のもとに、寿々花さんがやって来た。

「あ?どうしたよ」

「あのね、これ。これ一緒に見て」

俺の服の袖を掴んで、ぐいぐい引っ張ってくる。

どうした。なんか緊急事態か?

「あ、ちょっと待てって」

寿々花さんに手を握られ、強引に連れて行かれそうになった。

ちょっと待て。分かった、行くから。

その前に水を止めさせてくれよ。皿洗ってる途中なんだよ。

「悠理君、手が冷たいね」

「…皿洗ってたからな」

人様の手を一方的に握った感想がそれか?

…まぁ良いや。

「で、どうしたんだ?」

いきなり引っ張って呼んでくるのだから、余程のことがあったんだろうな?

「これこれ。これ一緒に見て」

寿々花さんが見せてきたのは、俺がさっき買ってきたばかりの、ハムスターランドのガイドブック。

…一緒に見ろって、ガイドブックを?

「色々載ってるんだよ。アトラクションとか、レストランとか、ポップコーンの場所とか」

アトラクションとレストラン…は分かるけど。

ポップコーンの場所って何だ?

寿々花さん、ポップコーン好きだっけ…?

「見てるだけで面白いんだよ。一緒に見よう」

とのこと。

…ちっちゃい子供が、積み木でお城を作ったから見て、と親にせがんでるようなもんだな。

一緒に共有して欲しいんだろう。

仕方ない。皿洗いの途中だったけど…付き合ってやるか。

ホラー映画に付き合わされるより、百倍はマシだからな。

ガイドブックを一緒に眺めるくらい、訳ない。

「ね、早く早く。こっちに座って」

「はいはい、分かった」

分かったから、引っ張るなって。

全く、初めてのハムスターランド旅行にはしゃいでんな?

これほど楽しみにしてくれるんだから、チケットを送った椿姫お嬢さんも満足していることだろう。

「アトラクションがね、いっぱいあるんだよ。メリーゴーランドとコーヒーカップだけかと思ってたら、そんなことないの」

そりゃ、天下のハムスターランドだからな。

そんなありきたりなアトラクションじゃ、つまらないだろう。

どれどれ、と俺もハムスターランドのガイドブックを見せてもらった。

本屋で立ち読みくらいはしたけど、じっくり読むのは初めてだな。
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