アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…それにな。さっきから寿々花さん、楽しそうにアトラクションの希望を口にしてるが。

大事なことを忘れてないか?

あんたの希望も大事だけど、同じくらい、一緒に行くパートナーの希望も尊重してやれよ。

一人で行くんじゃないんだからな。一緒に行く人とも意見をすり合わせて。

お互いの意見を尊重したプランを立てろよ。

「寿々花さん、あんた、一緒に行く相方の意見も聞いてやれよ」

「ほぇ?」

ほぇ、じゃなくて。

「その人にも聞いてやれよ。どのアトラクションに乗りたいか、とか。どのレストランで何を食べたいか、とか」

「そっか、そうだね。聞かないと」

「おぉ、そうしろ」

そうして二人で計画を立てて、二人で楽しんでこいよ。

一生懸命俺に喋ってないで、ちゃんと一緒に行く相手と…。

…すると。

「じゃあ、悠理君は何に乗りたい?」

「…」

…えっと。

…何で俺に聞いてくるんだ?

一緒に行く人に聞け、って言ったじゃん。

…参考?参考までに俺に聞くってこと?

俺だったらどうしたいかって?

「えっと…。寿々花さんは絶叫系が好きみたいだけど…。俺はどっちかというと、もうちょっと平和なアトラクションの方が…」

「メリーゴーランドとか?」

「いや、そこまで平和になれとは言ってねぇよ。メリーゴーランドじゃなくても…」

「これとか?ハムスターさんのひまわりのタネハント」

そんなアトラクションがあるの?

語呂が…語呂が悪いぞ。

「あと、これも。イッツ・ア・ハムスターワールドだって」

ハムスターワールド…?

「それはどんなアトラクションなんだ?」

「世界中のハムスターが集まって、歌を歌うアトラクションなんだって」

何それ。

それはそれで怖くね?

世界中のハムスター…。ジャンガリアンとかゴールデンとか?

他に種類知らねぇや、ハムスター…。

「ご飯は?悠理君、どんなご飯食べたい?」

今度はレストランの話か?

「えーっと…。お洒落なレストラン…と言いたいところだけど、俺の性に合わなそうだから…」

「どんなご飯でも、悠理君の手作りの方が美味しいに決まってるもんねー」

違う。そういう意味じゃない。

「強いて言うなら、さっき見たパイナップルのピザが気になったかな」

「パイナップルのピザかー。美味しそうだね」

美味しそうか?

「よし、じゃあさっき言った、悠理君の希望のアトラクションと、パイナップルのピザも食べに行こうね」

「…」

「二日目のハムスタースカイでは、どうしようか。こっちも面白そうなアトラクションがたくさんあるね。まず、このレイジングハムスターとー」

…なぁ。さっきからずっと気になってるんだけど。

何で、俺に聞くんだ?

まるで、俺が一緒に行くことになってるみたいじゃないか。

そろそろ…そろそろ、取り返しがつかなくなる前に、聞いておくべきなのかもしれない。

しかし、怖くて聞けなかった。

こうやって、ずるずると現実との直面を後回しにするんだよな…。
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