アンハッピー・ウエディング〜前編〜
そして。

いよいよ、寿々花さんのハムスターランド旅行を翌日に控えたその日。




学校では、雛堂が相変わらず、超不機嫌顔だった。

「どうしたんだよ、雛堂…。また膨れっ面だな」

「そりゃ膨れっ面にもなるわ…。ちくしょー、チビ共め…」
 
…またチビ共の話か?

「そういや、雛堂のところのチビ、修学旅行だったんじゃないのか?」

「そうだよ。それだよ!」

あ、ごめん。

そのことで不機嫌だったのか。図星ついてしまった。

「行ってきたよ。帰ってきたよ。昨日」

昨日帰ってきたのか。

「旅行で疲れてるだろうからって、今日休みなんだってさ。生意気な。自分は修学旅行の翌日から学校だったぞ」

「…よく覚えてんな、そんなことまで…」

俺はもう覚えてないぞ。修学旅行の翌日…学校だったっけ?

確か土日を挟んで、月曜日から登校したような気がする。

「どうだったんだ?修学旅行」

「満面笑みで帰ってきやがったよ。ハムスターのカチューシャつけてさぁ」

そりゃまた…ハムスターランドを満喫してるなぁ。

「あのアトラクションに乗ったとか、どの店でチュロス食ったとか、延々自慢話してたわ。あー腹立つ」

「…大人気ない人ですね」

乙無がボソッ、と呟いていた。 

まぁ、そう言ってやるなよ。

「何だよ、乙無の兄さん。今日は話に参加してくるんだな。神様との交信は良いのか?」

「いつも交信してる訳じゃありませんよ。イングレア様が僕に伝えたいことがあるときだけ、脳内に語りかけてくるんです」

「ふーん…。寝てるときに話しかけられたりしたら、どうすんの?」

確かに。

脳内電話に、不在着信はあるのだろうか。

まぁ、そんなことはどうでも良い。

「楽しそうな話ばっかしやがってよー、悔しいぜ。自分、15年も生きてんのに、今年で16年にもなるのに、一回もハムスターランド行ったことないんだぜ…!?」

「俺だって行ったことないよ…。別に珍しくはないだろ?」

死ぬまで一回もハムスターランドに行かずに一生を終える人だって、たくさんいるよ。

別に何も恥ずかしいことではないだろう。

「僕もないですよ。あなた方の何十倍も長生きしてますけど」

ほら、乙無もこう言ってる。

…あんた、何歳なんだ?

「あんなチビでさえ、早々にハムスターランドデビューしてるってのに…。あぁ、自分も行きたかったー!」

大声出すなよ。

一生は長いんだから、死ぬまでに行ってくれば良いじゃん。遅くないよ、いつでも。
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