アンハッピー・ウエディング〜前編〜
しかし、雛堂の鬱憤はまだまだ晴れない。

「聞こえよがしに、楽しそうに旅行の思い出を語りやがってよー…。生意気にも、ビッグハムスター・マウンテンに乗ったらしいぜ」

あ、それ聞いたことがある。

ジェットコースターだよな。寿々花さんも乗りたいって言ってた…。

「三大マウンテン、だっけ…?もしかして、全部乗ったのか?」 

と、何気なく尋ねたのが不味かった。

「いや?ビッグハムスターだけだって。平日とはいえ、一時間以上待たされたらしくて、他のマウンテンは時間なくて乗れなかったって」

「あ、そうなのか…」

「しかし、星見の兄さん。三大マウンテンなんか知ってたんだな」

…ぎくっ。

…やべぇ、余計なこと言わなければ良かった。

更に、乙無も。

「さっき、悠理さんも行ったことないって言ってませんでした?詳しいんですね」

行ったことないのに、何で三大マウンテンなんか知ってるのかって?

えぇと…常識の範疇…ってことにしておくか?

いや、もっと機転を利かせて…。

「え、えぇと、あの…。俺は行ったことないんだけど、俺の…身内が…今度行く予定なんだよ」

しどろもどろ。

「あ、もしかして、また星見の兄さんのお姉ちゃんの話か?」

そう。違うんだけど、そうだよ。

寿々花お嬢さんの話だ。

「そ、そう。それで今、色々調べてるんだ。どのアトラクションがあって、どのレストランで食事して…って。計画立ててるのを見てさ」

「成程…。…って、良いなぁ。星見の兄さんの姉さん…。自分も連れてってくれよ」

「厚かましい人ですね…。そんなに行きたいなら、自分で行ったら良いじゃないですか」

と、ジト目で雛堂を睨む乙無。

「お馬鹿。あそこは夢の国なの!何もかもお高いの!」

「お高い…?」

「交通費だけでもウン千円だし、チケット代は一日一万円くらいするし。アトラクションは無料だけど。グッズもグルメも桁が違う値段だって話だよ」

…そんな高いのか?

お金の心配は必要ないからって、チケット代やグッズ代は確認してなかった。

入園チケットだけで一万円…か。

椿姫お嬢さんの送ってくれたチケットには、入園料の他にも。

パーク内での優先権、ホテル代などのオプションがついてるんだよな。

しかも、それを二人分…。

…あの紙切れ、一体いくらしたんだろう…?

あの一枚だけで、近場の海外旅行くらい行けるんじゃないか?

「貧乏人が行こうと思ったら、思いっきり背伸びしないと無理なの。お高い場所なの。OK?」

「ふーん…。夢を見るにもお金が要るってことですか。世知辛いですね、人間って」

それを言うなよ、乙無。

悲しくなってくるだろ。

「良いなぁ。星見の兄さん、お姉さんに、自分の分のお土産を頼んでくれ。お願いだから」

「わ、分かった…。言っとくよ」

「やったぜ!」

…まぁ、お土産くらいなら。

この間の誕生日プレゼントのお礼も兼ねて、寿々花さんに頼んでおくよ。
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