アンハッピー・ウエディング〜前編〜
その日の夕方。

帰宅後、寿々花お嬢さんはうきうきと楽しそうに、俺に話しかけてきた。

「悠理君、明日楽しみだね」

明日はいよいよ週末。

予定していた、ハムスターランド旅行の日である。

分かるよ。旅行前日って楽しみだよな。わくわくするよな。

それは良いんだよ。別に。

…で、何で俺に同意を求めてくるんだ?

「…良かったな」

「そういえば、悠理君はまだ荷造りしてないけど、今日するの?」

「…」

…何で俺が荷造りする必要があるんだ?

俺は家に残るというのに。

それよりも。

「明日…何時に家を出るんだ?待ち合わせ場所とか、ちゃんと決めてるんだろ?」

旅行の日程は、きちんと守った方が良いぞ。

一緒に行く同級生に迷惑がかからないようにな。

十分前行動が基本。

「家を出る時間?うーんと…。まだ決めてない」

おいおい。

旅行は明日だろ?そんな悠長なことで良いのか。

ツアー旅行じゃないから、他のお客さんに迷惑…ってことはないだろうが。

でも、ちゃんと大まかな時間くらいは決めた方が良いと思うぞ。

「悠理君、明日何時に出掛けよっか?」

だから、何で俺に聞くんだ?

「…早めに出た方が良いんじゃないか?電車の時間もあるし…。朝…6時とか」

ハムスターランドの開演時間って、何時なんだろう。

10時…は遅いか?9時くらい?

電車に乗って、ハムスターランドまで向かう時間も計算に入れて…。

万が一、迷子になって駅の構内を彷徨うようなことになったら、余計な時間を食う。

余裕を持って行動した方が良いだろう。

「じゃあ、6時に出掛けるよ」

「…」

「明日は早起きだなー。悠理君、寝坊しないように起きようね」

…なぁ。

だから何で、ずっと俺に同意を求めてくるの?

ずっと、この数日間、俺は目を背け続けてきた。

現実から。

しかし…寿々花さんのハムスターランド旅行が明日に迫った今。

最早、現実から目を逸らし続ける訳にはいかなかった。

「…なぁ、寿々花さん。一つ質問しても良いか?」

「良いよ。遠慮せずに、二つでも三つでも聞いて良いよ?」

それはどうも。

でも、一つで良いよ。

「…明日、誰と一緒にハムスターランドに行くつもりなんだ?」

「?悠理君」

何を当たり前のことを、と言わんばかりに。

さらっと、何の躊躇いもなく言いやがった。
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