アンハッピー・ウエディング〜前編〜
雨間に光差す頃の章4
翌日。早朝。

俺は、いつもより2時間も早く目を覚ました。

「あー、眠い…」

そうでなくても、昨日は遅くまで荷造りをしていたせいで。

いつもより、ベッドに入る時間が遅かったっていうのに。

電車の中で寝てしまいそうだな。…寝過ごすぞ。

でも、朝早めに起きて、もう一回荷物の確認をしたかったんだよ。

何せ、俺が旅行に行くことを知ったのは昨日の夕方だからな。

慌ただしく荷物をまとめたから、何か忘れ物があるかもしれない。

旅行慣れしてないもんなぁ…俺。

一泊二日で、しかも近場の旅行なので助かった。

もし足りないものがあっても、最悪戻ってこようと思ったら、すぐに戻ってこられるし。

あとはもう、現地調達だな。

都会なんだし。必要なものは揃ってるだろう。

早くに起きて、荷物の確認をして、それから俺は朝食を作り始めた。

…しかし、寿々花さんが起きてこない。

あの人、今日旅行だって覚えてるよな?

早起きだねって、自分で言ってた癖に。起きてこないんだけど。

このまま放っといて、自然に起きてくるまで待とうか、と思った。

…でも、楽しみにしてたからな。旅行。

寝過ごして家を出るのが遅れた…なんて、幸先が悪いにもほどがある。

仕方ない。…起こしてやるか。

全く…何が嬉しくて、女の寝室に立ち入らなきゃいけないのか。

俺は寿々花さんの寝室に向かって、部屋の扉をノックした。

「おい、起きてるか?」

…無音。

どうやら、まだ寝てるらしい。

部屋の扉をノックしたくらいじゃ起きないだろうなぁ…。

何せ、家の中を大掃除していても、リビングのソファでぐっすり昼寝してたような人だから。

「…入るぞ」

扉を開けて、俺は寿々花さんの寝室に足を踏み入れた。

…そういえば、初めてだな。寿々花さんの寝室に入るの。

いや、一応…女性の部屋だからさ。入らないようにしてたんだよ。

入っちゃ不味いだろ?

でも、今は緊急事態だ。

「おい、起き…。って、うわっ」

寝室に一歩足を踏み入れて、俺はびっくりして固まってしまった。

…寝室なんだから、部屋の中にはベッドがあって、クローゼットや姿見があって…。

女性の寝室らしく、ドレッサーなんかも置いてあるもんだと思っていたが。

この寝室には、びっくりするほど何もなかった。

何なら、ベッドさえ置いてない。

じゃあ、寿々花さんは何処で寝てるのかって?

そんなの俺が聞きたいよ。

寿々花さんは、カーペットすら敷いていない寝室の床で。

寝袋にくるまって、すーすーと寝息を立てていた。
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