アンハッピー・ウエディング〜前編〜
起きてきた寿々花さんと、慌ただしく朝食を取り。

家中の戸締まりを確認して、俺達はまだ薄暗い外に出た。

二人分の荷物が入った、重いスーツケースを引き摺りながら。

「絶好の旅行日和…と言いたいところだが、天気崩れそうだな…」

空はどんよりと曇って、今にも雨が降り出しそうだった。

一応、今日の天気予報を見たところ。

今日は一日中曇りマークで、雨は降らないだろうと言っていたが…。

俺か寿々花さんのどちらかが、雨男、雨女だったら、多分降るだろうな。

「てるてる坊主、作ってきたら良かったねー」

「…そうだな…」

効果があれば、の話だけどな。

まぁ、ハムスターランドは雨天閉園じゃないから。

少々雨が降っていても、ちゃんと営業しているだろう。

この時期は仕方ない。梅雨だからな。

むしろ悪天候だったら、程よくお客さんが少なくて快適なのでは?

俺と寿々花さんは二人で駅に向かって切符を買い、電車に乗り込んだ。

まだ時間が早いせいもあって、電車の中は結構空いてる。

これなら座れそうだな。

「寿々花さん、そこ。空いてるとこ座れよ」

「悠理君も座ろうよ。隣に」

そうしたいところなんだけど。

「いや、座ったら居眠りしそうだから…。俺は立っておくよ」

早起きしたせいで、まだ眠気が残ってる。

この状態で二人して座席に座ったら、仲良く寝過ごしそうだからな。

俺は立って、起きておくよ。

「じゃあ、私も立つ」

「いや、良いから…。スーツケース持って、座ってろ」

「…そっかー」

…何で、ちょっと残念そうなんだ?

一緒に座りたかったのか?そうなのか。

ともかく、と俺はハムスターランドのガイドブックを開いた。

このガイドブック、ハムスターランドへのアクセスも載ってる。

何処の駅から何番乗り場の何々線に乗って、何処の駅で降りなさい、って。

書いててくれて助かったよ。

危うく、迷子になるところだった。

って、書いてあっても間違えそうだからな…。都会って怖い。

駅広過ぎ。人も多いし。

休日の早朝これだもんな。

平日の通勤通学ラッシュの時間なんて、きっと今よりもっと恐ろしいことになってるんだろうなぁ。

俺に都会生活は無理だな。

ましてや、言葉もろくに通じないフランスの学校に通ってる、椿姫お嬢さんのようなことは。

俺には、絶対出来ない。

日本人ともろくに仲良くなれないのに、どうやって外国人と仲良くなれるだろうか。

仲良く…と言えば。

俺は、同じクラスの雛堂と乙無のことを思い出した。

図らずも俺は今日、人生で初めてのハムスターランドデビューを果たそうとしている。

このことを雛堂が知ったら、「抜け駆け!」って言うだろうなぁ。

…内緒にしておこう。
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