アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…いずれにしたって、俺は逆らえないのだ。

俺が嫌がって逃げたところで、何になるというのだろう。

どうせ連れ戻されるに決まってるし、何より俺が逃げ出したりしたら、母が一族郎党から責められることになる。

これ以上、この家のことで母を苦しめたくなかった。

…俺が本家のお嬢さんと結婚すれば、母の暮らしぶりも少しは良くなるかもしれないじゃないか。

そう思えば、この見え透いた強制結婚も、悪いばかりではない。

それに、本家は実に「慈悲深い」申し出をしてくれた。

本家のお嬢さんと結婚すれば、俺の住む家も、生活も、高校の学費も保証してくれるそうだ。

本家に小馬鹿にされているようで腹が立つが、この申し出は正直、有り難かった。

俺は今年中学校を卒業して、次の春から高校生になる年齢だ。

だが、元々進学の予定はなかった。

その日その日を生きていくだけでも大変な我が家に、進学なんて贅沢は望めなかった。

奨学金を借りて、夜間高校でも良いから通って…というのも考えたけど。

自分の進学よりも、早く独り立ちして母を楽にしてあげたかった。

どうせいつか、本家の政略の為に使われる運命なのは分かっていたし。

学歴なんて、大して必要ではない。

自分にそう言い聞かせて、早々と進学を諦めたが。

それでも受験シーズンになって、クラスメイトや同級生が、志望校に受かったとか偏差値が上がったとか、嬉しそうにはしゃいでいるのを見ると。

何とも言えない、惨めな気持ちになった。

自分だけが取り残されたような、そんな惨めな気持ちに。

なまじ、そこそこ成績だけは良かったからな…。

余計、進学出来ないのが惨めだった。

そこに、本家からの「有り難い」お誘いが舞い込んできたのだ。

本家のお嬢さんのもとに婿入りすれば、お嬢さんが通っているのと同じ高校に進学させてやる、とのこと。

金が無い為に俺が進学を諦めたことを知って、わざと「進学」という言葉で釣ったんだろう。

そう言えば、俺が逆らわないだろうと思って。

進学させてもらえようが、もらえまいが、本家の命令に逆らえないのは変わらないけどな。

どうせ耐えるしかないのなら、せめて諦めていた高卒という学歴くらいは、本家のご好意(笑)に甘えても良いだろう。

そこで俺は、すぐにこの話を承諾した。




そして今日、この日。

俺は「花嫁」と一緒に暮らす為に、今日から住むことになる家に向かった。




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