アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「はぁ…」

俺は、深々と溜め息をついた。

犯行動機が何であれ、ここを掃除するのは俺の仕事であって。

半日外を駆け回って疲れてるのに、更にキッチンとリビングを掃除をするという、余計な仕事がまた増えた。

冗談だろ、全く…。

「でもね、私悠理君に…」

と、お嬢さんが何か言いかけたが。

「あー、分かった分かった。もう良い」

これ以上何か話しても、何も解決する気がしない。

どうせ、片付ける手間が少しでも減る訳じゃない。

それなら、さっさと掃除に取り掛かろう。

今日は夕飯の前に、少しでも荷物の片付けを進めようと思ってたのに…それどころじゃないな。

「俺が片付けるから、あんたは二階に戻っててくれ」

この場にいられたら、掃除の邪魔。

いっそ本人に片付けさせようかと、とも思ったが…。

俺はお嬢さんに、そんなことを命じられる立場じゃないし。

え?さっき座らせて説教してたじゃんって?

あれは…。…つい。

あんまりやり過ぎて、本家に報告でもされたら面倒なことになるのは分かってるんだが…。

食材を無駄にされたら、誰だって腹立つだろう?

それはそれ、これはこれだ。

お嬢さんに片付けなんかさせたら、余計俺の手間が増えそうな気がする。

だって、俺がいない数時間の間に、これだけ散らかしたんだぞ?

このお嬢さんに、片付けなんて出来るはずがない。

片付けるつもりが余計散らかして、もっと酷いことになるかもしれない。

最悪、マジで火事が起きる。

住み始めて僅か2日で、家を燃やされたら敵わん。

やはり、ここは俺が片付けるべきだろう。不本意だけど。

それなのに、当のお嬢さんは。

「えっ。片付けちゃうの?」

何が「えっ」なんだよ。

「片付けるに決まってるだろ」

俺はこんな散らかった部屋で暮らす趣味はないんでな。あんたと違って。

速攻、全部片付けさせてもらうぞ。

「…」

お嬢さんは、しばし無言で俯き。

「…うん」

こくりと頷いて、素直にその場から立ち去った。

階段上がっていく音がしたから、自分の部屋に戻ったらしい。

…何だよ、今の反応。

俺は何も悪いことはしてないはずなのに、まるで俺が悪いかのように…。

…。

…掃除、ともあれ掃除だ。

まずはこの部屋を綺麗にしないことには、落ち着かないから。

早いところ取り掛かるとしよう。
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