アンハッピー・ウエディング〜前編〜
しかし、そんな俺の葛藤をよそに。

「…zzz…」

「…寝てるし…」

寿々花さんは、あっという間に夢の中に旅立っていた。

はやっ…。さっきまで起きて喋ってたよな?

いくら疲れているにしても、どうやったらそんな一瞬で眠れるんだよ。 

…呑気な奴だよ。

未婚の男女が隣同士のベッドで寝るなんて…と、年相応の葛藤を抱いていた俺が馬鹿みたいじゃないか。

「あーっ、もう…。…良いや」

考えるのがアホらしくなってきた。

つーか、あんた。毛布もかけずにそのまま寝てんじゃん。

風邪引くぞ?いくら、馬鹿は風邪を引かないとはいえ。

「はぁ、ったく世話が焼ける…」

俺は寿々花さんのベッドの毛布を取って、身体にかけてやった。

これで良いだろ。

「…zzz…」

「…」

我ながら悪趣味だと思いつつ、俺は呑気に寝息を立てる寿々花さんの寝顔を、じっと見つめた。

…そういや、最初に会ったときから、この人は寝てたよな。

そう思えば…今更、俺の前で寝顔を晒すことに抵抗があるはずがない。

無防備な寝顔だよ。本当に。

俺が相手だからまだ良いけど、俺以外の奴に、そんな無防備な姿を見せるなよ。

「…はぁ、やれやれ」

俺は、色々難しいことを考えるのを放棄して、寿々花さんと同じようにベッドに寝そべった。

めっちゃふかふか。…王様の気分。

隣のベッドを見ると、寿々花さんが枕を抱き締めて、すーすーと寝息を立てていた。

…本当、間抜けな顔だよなぁ…。

「…おやすみ、寿々花さん」

その間抜けヅラに向かって、俺はそう呟き。

ベッドサイドのランプを消し、毛布にくるまって…寿々花さんほどじゃないけど、俺も早々に眠りに落ちた。
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