アンハッピー・ウエディング〜前編〜
雨間に光差す頃の章5
…翌日。

「ん…」

カーテンの隙間から差し込んでくる朝日で、俺は目を覚ました。

そして、視界いっぱいに飛び込んできた、豪華な壁紙の貼られた天井を見て。

ここは何処なのかと、一瞬考えた。

…そうだ、思い出した。

ここは、ハムスターランドホテルのスイートルーム。

俺と寿々花さんは今、ハムスターリゾートに旅行に来てるんだった。

今日は二日目だな。

枕元の時計を見ると、そろそろ良い時間だった。

今から起きて着替えて、身支度を整えて。

朝食ビュッフェでゆっくり食事したら、そのままハムスタースカイに行けるな。

じゃ、起きるか。

俺はふかふかのベッドから起き上がった。

なんか節々が痛い気がするけど、これは多分筋肉痛だな。

昨日、ハムスターランド内を動き回ってたもんなぁ…。

今日もたくさん歩くんだろうな。

今更だけど、履き慣れたランニングシューズを履いてきて本当に良かった。

こんなところまで来て、慣れない靴で靴ずれを起こしたら。目も当てられないもんな。

…さて、それはさておき。

「寿々花さん。あんたもそろそろ起き…。…えっ!?」

隣のベッドを見て、俺は驚愕した。
 
一瞬にして眠気が覚めた。

寿々花さんは、いなかった。

あの人のことだから、寝穢く、まだ寝てるんだろうと思っていたのに。

ベッドの上は空っぽで、寿々花さんの姿はない。

えっ…嘘だろ?

何処に行ったんだ、あの人。

まさか今日に限って早起きして、部屋から出ていってしまった訳じゃないよな?

俺は毛布を払い除けて、慌てて立ち上がろうとした。

そしてそのとき、寿々花さんの姿を見つけた。

…床に。

「…」

あんまりびっくりして、俺はそのまましばらく固まってしまった。

…早起きして、勝手に近くを観光しに行っている…なんてことはなかった。

俺の予想通り、ちゃんと寝穢く寝てたよ。いつも通り。

…床でな。

寿々花さんはベッドの上ではなく、床の上で毛布にくるまって。 

さながらイモムシみたいな格好で、間抜け顔で寝息を立てていた。

多分…いや絶対、夜中にベッドから墜落したものだと思われる。

…畜生、一瞬だけだったとはいえ、心配させやがって。

つーか、寝相悪っ…。夢の中でもコロコロしてんのかよ。

寿々花さんが普段、ベッドじゃなくて寝袋で寝てる理由はこれなのかもしれない。

このお嬢様、壊滅的に寝相が悪い。

ハムスターランドホテルのスイートルームに泊まってるっていうのに、床で寝る奴があるかよ。

「…こら。おい、そろそろ起きろ」

俺は床にしゃがみ込んで、寿々花さんを揺り起こした。

「んー…。むにゃむにゃ…」

「朝だぞ。ハムスタースカイ、行くんだろ?」

「…すぴー…」

…駄目か。

簡単には起きてやらんぞ、という強い意志を感じる。

声をかけても揺すっても、熟睡している寿々花さんには効き目がない。

さて、どうやって起こしたものか…。

強引に起こしても良いんだけど、旅行先に来てまで、そんな強引な方法で起こすのもな…。

仕方ない。…こうなったら。

俺は、部屋の隅を指差してこう言ってみた。

「…見ろよ、寿々花さん。あそこ、ハムッキーがひまわりのタネを追いかけてるぞ」

「ほぇ?何処に?」

…案の定、効果てきめんだった。
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