アンハッピー・ウエディング〜前編〜
気づいてたよ。俺だって。昨日から。

パーク内ですれ違う人の大半が、頭に飾り物をつけていた。

ハムスターのカチューシャとか帽子とか、ヘアアクセサリーをさ。

あれは、ハムスターランドだからこそ許される行為である。

日常生活で、ハム耳カチューシャなんかつけて歩いてみろ。

「あの人、頭の中ひまわりのタネでも詰まってんのかな…」って、白い目で見られるに決まってる。

それなのに、ハムスターランドでは普通の光景なんだから。

これって不思議だよな。

従って、パーク内にいるときは良いけども。

旅行から帰ったら、間違いなくこのカチューシャや被り物は、お蔵入りである。

多分、もう二度とつけることはないだろう。

そう思うと何だか、こういうものにお金を使うのは勿体ない気がして。

そもそも、俺が見たところ。

こういう飾りをつけているのは、主に女性か、あるいは子供である。

いくらパーク内だろうと、良い年した野郎がハム耳のカチューシャなんかつけてたら。

…なんか、痛い奴に見えないか?

普段の乙無ほどじゃないけど。

「ハム耳…つけるのか?」

「えーっと。こっちがハムッフィーの耳で…。こっちがハムーメイの耳だって。それじゃ買ってくるねー」

おい。何で二つ買うんだ。

つけるなら一人でつけろよ。俺はそんな痛い奴になるつもりは…。

…と、言いたいところだったが。

寿々花さんは、二人分のカチューシャを購入。

オスのハムスターのキャラクター、ハムッフィーのカチューシャを自分の頭につけ。

メスのハムスターのキャラクター、ハムーメイのカチューシャを俺に手渡してきた。

「はい、悠理君。ハムーメイのカチューシャあげる」

「…何で、メスの方なんだよ…」

せめてオスの方が良かった。いや、オスだろうがメスだろうが、カチューシャをつけて外を出歩く趣味はない。

…が、目の前で買ってもらった手前、「要りません」と突っ返す訳にもいかず。

言われた通り、黙ってハム耳をつける以外、俺に何が出来たと言うのだろう。

「うん、可愛い。似合うよ、悠理君」

こんなに嬉しくない褒め言葉が他にあっただろうか。

「あのな…。寿々花さん、こういうところに来たらテンション上がるから、今は良いかもしれないけど。パークから一歩出たら、途端に冷静に…」

「あ、ハムスターのぬいぐるみだー。見てみよ」

「話を聞けって」

あと、勝手に歩き出すんじゃない。

ただでさえ人混みなんだから、迷子になったら大変だ。
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