アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…二時間後。

部屋の中は、ようやく今朝の美しい姿を取り戻した。

…いや、まだ完全に戻ったとは言えないな。

窓という窓を全開放して換気したのに、部屋の中にはまだ、焦げ臭い匂いと。

それから、お嬢さんの作った「お手製ラーメン」の異臭が漂っている。

…気持ち悪くなってくるな。

明日の朝になっても、まだ異臭が残ってたら。

そのときは近所のドラッグストアに行って、脱臭剤を買い込もう。

それで匂いが消えてくれると良いんだが…。

「ふぅ…」

一息つく暇もなく、そろそろ晩飯作らないとな。

今日は、昨日より少し手の込んだものを作る余裕があるかな、と思ってたのに…。

余計な掃除の手間が増えたせいで、結局時間がない。

今日も手抜きメニューになりそうだな。どうしよう…。

冷蔵庫の中身と相談しながら、今晩のメニューを考えていると。

「…ちらっ」

「…」

キッチンの入り口のところに、お嬢さんが立っていて。

顔を半分、扉の影から覗かせて、こちらを見つめていた。

「…ちらっ」

…ちらっ、じゃなくて。

「自分の家なんだからさ…。チラ見してないで、堂々と見ろよ」

あんたにとって俺は、召使い同然なのに。

遠慮したり気を遣うような相手でもないだろ。

掃除が終わった気配を察して、降りてきたのか?

「…もう入っても良い?」

「良いよ、掃除終わったから。どうぞ」

俺がそう言うと、お嬢さんはキッチンにてくてくとやって来た。

「悠理君。ラーメンと花びら…全部片付けたの?」

「片付けたよ。全部ゴミ袋に叩き込んでやった」

「…そっか…」

何でしょんぼりしてんの?

食べられると思ったのか。あれを?

どう前向きに考えても、あれは人間…いや、生き物の食べ物じゃなかったよ。

…それよりも。

「これから夕飯作るんだけど、あんたは何が良い?」

「え?」

え?じゃなくて。

「夕飯だよ。晩ご飯。そろそろ時間だろ?」

「あぁ、うん。そうだな…今日はどん太郎きつねうどんの気分かな」

カップ麺の種類を聞いたんじゃねぇよ。

「カップ麺じゃなくて…。ちゃんと食材から作るよ」

「?何を?」

「そうだな…」

冷蔵庫を開けて、中身を確認。

昨日オムライスに使った卵の残りと、今日買ってきた鶏肉があって…。

あとは、野菜が数種類…。これで出来るものって言ったら…。

「…親子丼とか、どうだ?」

「親子丼?」

「そう。好きか?」

「…うん」

こくり、と頷くお嬢さん。

よし、じゃあそれにするか。

「分かった。30分…いや、20分待ってくれ」

ちゃっちゃと作って、ちゃっちゃと食べてしまおう。
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