アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…10分経っても、待てど暮らせど寿々花さんが戻ってこない。

これで、計30分近く寿々花さんと離れていることになる。

もしかしなくても、これはヤバいな。

緊急事態だよ。

さすがの俺も、今回ばかりは現実を直視するよ。

時間が経てば経つほど、事態が悪化しかねない。

「…あの人、一体何処に行ったんだ…?」

戻ってこられなくなったのか?人混みで。

俺が待ってるベンチの場所が分からなくなったのか。

有り得る。

おっちょこちょいだし、方向音痴だし。

あぁ、やっぱり一人で行かせるんじゃなかった。

ついていくべきだったんだよ、俺も。休憩なんかしてる場合じゃなかった。

分かってるのか?俺。寿々花さんの身に何かあったら、それは俺の責任なんだぞ。

世話係の意味を考えろよ。

ただ迷子になってるだけなら良い。

変な奴に捕まって、ナンパとかされてたらどうしよう。

あの人、典型的な「見た目は大人、中身は子供」なんだぞ。

口車に乗せられて、誰にでもひょいひょいついていくだろう。

まさかハムスターランドにまで来て、ナンパなんて良からぬことを考える馬鹿はいない…と信じたいが。

…。

こうなったら、もうじっと待っていることは出来なかった。

探しに行こう。

俺は立ち上がって、ガイドブックを確認し。

寿々花さんがドリンクを買いに行ったであろう、ここから一番近くのカフェに向かった。

そのカフェは、歩いて5分もかからない、すぐ近くにあった。

寿々花さんがドリンクを買いに来たのは、ここだよな?

確かに行列は出来ていたけど、その行列の中に寿々花さんの姿はなかった。

カフェの周囲を、注意深く目を凝らして探してみる。

…が、やはり寿々花さんは何処にもいない。

…ってことは…ドリンクを買いに行った帰りに迷子になったのか?

ここからベンチまで5分もかからないのに、一体どうやったらこんな短い距離で迷子になるんだ。

いくら、初めて来た場所とはいえ。

…さぁ、これからどうしようか。

スマホで連絡取れば良いじゃん、って思うだろ?

俺もそう思った。

が、その方法には問題がある。

何かと言うと、俺が寿々花さんのスマホの番号を知らないってことだ。

3ヶ月一緒に暮らしてて、相手のスマホの番号さえ知らないのかよ。

知らないんだよ。これまで必要なかったから。

そもそもあの人、スマホなんて持ってるのだろうか。

使ってるところ、見たことがないんだが…。

今以上に、電話番号聞いておけば良かったと思った瞬間はない。

でも、後悔している時間もない。

…こうなったら、自分の足で探すしかないよな。

カフェの周辺を中心に、この近辺を隈なく探してみよう。

それで、見つかれば良いのだが…。
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