アンハッピー・ウエディング〜前編〜
しかし、そう上手くは行かない。

「畜生…。何処行ったんだ、あの人…」

一向に見つからない。

ベンチに戻ってきてるかと思って、行ってみたのだが。

そこに寿々花さんの姿はなくて、既に別のカップルが座っていた。

これ見よがしに、お互いにあーんしてチュロスを食べ合ってたよ。

爆発しろ。

俺は今、それどころじゃないんだよ。
 
何処ほっつき歩いてんだろう。マジで。

もしかして、この近くにいるのだろうか?

すれ違ったりしてないよな?正直、自信がない。

昼を過ぎて、いよいよパーク内が混雑してきた。

当たり前だよな。貴重な梅雨の晴れ間で、しかも今日は日曜日。

昨日の倍以上いるんじゃないか?お客さん…。

この大勢の人混みの中から、特定の一人を探し出すのは、想像以上に困難だ。

頭にカチューシャつけてて、ハムトーニのぬいぐるみを持ってるのが寿々花さんだ、と。

頭の中で特徴を反芻しながら、必死に人混みを探そうとするのだが。

頭にカチューシャをつけてる人も、ぬいぐるみを抱いて歩いてる人も、いくらでもいるんだわ。

区別がつかない。

くそっ、皆して浮かれたカチューシャなんかつけやがって。

お陰で、全然寿々花さんと区別がつかないじゃないか。

…って、あの人達が悪い訳じゃないけど。

しかし、これ一体どうしたら良いんだ?

紛うことなき迷子だよな?これ。

こういうときって、どうすれば良いんだろう。

迷子?迷子センターに届けるとか?

でも、迷子センターは小さい子の迷子を保護する場所だよな?

寿々花さんは、確かに中身は小学校低学年レベルだけど。

見た目は一端の女子高生だから、迷子センターで保護してもらえる対象じゃない気がする。

それに…よくよく考えたら。

昨日からハムスターランド、今日はハムスタースカイにずっといるけど。

迷子の園内放送って、実は一回も聞いてないんだよ。

そもそも、園内放送が流れてるのを聞いたことがない。

そういう仕様なんだろうか。

これだけ広くて、これだけ人混みだと、迷子になる子供くらい、一人や二人いそうなものだが…。

迷子は自己責任だから、キャストさんの知ったことじゃない、ってことなのだろうか。

いずれにしても、迷子センターで探してもらえる年齢じゃないだろうし。

やっぱり、自分で探すしかないよな…。

寿々花さんが生きそうな場所…。何処かあるだろうか。

また絶叫系アトラクションに乗りに行ったとか…?

いや、ドリンクを買いに行ったのなら、さすがにアトラクションに乗りに行こうとはしないはず。

ってことは…もしかして、別のカフェにドリンクを買いに行った、とか?

…それなら有り得るかも…。

俺はガイドブックを開き、園内マップを確認。

寿々花さんが飲みたいって言ってた、キラキラしたスパークリングカクテルを売っているワゴンやカフェを、手当り次第に当たってみることにした。

今以上に、このガイドブックの存在に感謝した瞬間はないだろう。

これで寿々花さん見つけたら、俺はこのガイドブックにブックカバーをつけて、一生本棚の一番真ん中に飾っておくよ。
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