アンハッピー・ウエディング〜前編〜
案の定、広場は大勢の人がパレードを見物しに来ていて、凄まじい人混みだった。

手ぇ繋いできて良かった。

おまけに、寿々花さんは大はしゃぎで。

パレードの間中、着ぐるみ達にぶんぶんと手を振っていた。

繋いでない方の片手を。

あんまり勢いよく手を振るから、肘の先が取れるんじゃないか心配になるくらい。

楽しそうで何より。

今日は天気も良いし、絶好のパレード日和だったな。

そして。はぐれることなく、パレードが無事に終わった後。




「はー…。何だかいっぱいはしゃいだね」

「そうだな」

はしゃいでいたのは、主にあんただけだけどな。

「寿々花さん、そろそろ帰ろうか」

と、俺は言った。

そろそろ現実に帰る頃だ。

帰り道も、また電車を乗り継いで帰らなきゃいけないし。

忘れてるかもしれないけど、実は明日学校なんだぜ。

起きられるかなぁ…明日…。

「そっかー…。帰らなきゃいけない時間だね」

「名残惜しいけどな」

「でも、凄く楽しかった」

…そうか。

嬉しそうな顔して、そう言えるんだから。

奮発してチケットを送ってくれた椿姫お嬢さんも、満足していることだろう。

「また来ようね、悠理君。今度また来よう」

「はいはい、分かった」

「絶対だよ。絶対また来ようね。…来週来よう」

「…来週は早ぇだろ…」

また今度な。幸い、ハムスターリゾートは余程のことがない限り、なくなったりしないだろうから。

さすがに今度来るときは、優待チケットは買えないだろうなぁ。

今回は特別だよ。

でも、無月院家の財力なら…次もインチキ優待チケット、買おうと思えば買えるかも。

一回インチキチケットでインチキしたら、もう律儀に順番待ちなんかしていられないよな。

だって、見てみろよ。人気のアトラクション、軒並み180分待ちだってよ。

180分って、つまり三時間だろ?

俺が寿々花さんを探して、パーク内を駆けずり回っていたのも、精々一時間の出来事だったのに。

あれの三倍だと思うと、並ぶのに相当勇気が要る。

三時間並ぼうと思ってみ?地獄みたいに長いぞ。

しかし、それも含めてハムスターリゾートの醍醐味なのかね。

…それはともかく。

今日のところは、そろそろ撤収だ。

「さぁ、帰ろうか、寿々花さん。家に」

「うん、帰ろ」

パークから一歩でも出たら、もう手を繋いでいる必要はなかったのだが。

何だかんだ、家の玄関の扉を開ける時までずっと、握った手を離さないままだった。
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