アンハッピー・ウエディング〜前編〜
宣言通り、20分後には親子丼が完成し。

ついでに、生野菜を千切ってドレッシングをかけただけの簡単サラダを添え。

この家に来て、二日目の夕食が出来上がった。

…しかし、冷静に考えると。

昨日オムライスで、今日は親子丼か…。

卵ばっかだな。

良いじゃん。安かったんだよ、スーパーで。

千円以上お買い上げて、1パック98円だったから。

つい買ってしまうよな。ああいうのって。

「もぐもぐ。美味しいね親子丼」

お嬢さんは、「親子丼なんて貧乏臭いから嫌」などとは一言も言わず。

口元に米粒をいっぱいつけながら、もぐもぐと親子丼に夢中だった。

お行儀、お行儀。

「そりゃ良かった」

「やっぱり、悠理君は魔法の手だね。私も悠理君みたいに美味しいもの作れると思ったのに、何で駄目だったんだろう…?」

「…」

…袋麺とコンビニのチョコスイーツで、あんな恐ろしいブツを錬成出来るんだから。

ある意味で、あんたの方が魔法の手なんじゃねぇの?

「せめて余計なトッピングをしないで、素ラーメンで良いからちゃんと作って欲しかったよ…」

トッピングするにしても…何でチョコなんだ?

他にもっとあるだろ。野菜炒めとかゆで卵とか。

何故、敢えてチョコを選んだ?

「最初は違うものにしようと思ったんだよ?肉まんとか」

何で肉まん?

「でもコンビニに買い物に行ったとき、昨日の夢を思い出して」

「…夢?」

「うん。魔法使いの夢。一緒にいたもう一人の魔法使いがね、凄くチョコが大好きで、『チョコレートを一緒に食べれば、全世界の人間と仲良くなれると思うんだ』って真剣な顔で言ってたから」

「…」

「悠理君と一緒にチョコレートを食べたら、もっと仲良くなれるかなと思って。それで買ってきたんだ」

…成程、そういうことだったんだ。

ラーメンにしこたまチョコ菓子を入れてたのは、それが理由なのか。

なんつー夢を見てるんだか…。

ともかく、あのゲテモノトッピングは、その夢のせいなんだな?

チョコレートで全人類と仲良くなれる世界…。

それは本当に…「夢の世界」だな。

「じゃあ…花は?リビングに散らかってた桜の花びらは、あれは何だったんだ?」

あれも夢の世界の話?

かと思ったが。

「あれ?あれは…家に花を飾ろうと思ったの」

そういや、そんな感じのこと言ってたっけ…。

散らかったリビングにうんざりして、ろくに聞いてなかったけど…。

「飲み物と食べ物を用意して、花を飾って…。そうしたら…」

「…そうしたら?」

「…悠理君の、歓迎会になるかなーって」

「…」

…マジで?

それがお嬢さんの…一連の事件の「犯行動機」だったのか?
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