アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…何だよ、それは。

「歓迎会って…俺の?」

「うん」
 
こくん、と頷くお嬢さん。

じゃあ、何だ。お嬢さんはお嬢さんなりに…。

俺がこの家に来たことを歓迎しようと、あれこれ考えて。

考えた結果…ちょっと悲惨なことに。

いや、ちょっとどころじゃなく悲惨なことになったけど…。

あれで一応…俺の為を思って、俺を喜ばせようと思って…。

そんなこと言われたら…怒るに怒れないじゃないかよ。

「もっと、その…仲良くしたくて、ってことか?」

「…うん」

「…」

そうだったのか。

…それならそうと、言ってくれよ。

まぁ…言われたら、それはそれで…返答に困ってただろうけど。

何だろう。凄くなんか、こう…調子狂う。

もっと高飛車で、金持ちなのを鼻にかけたような女だと思ってたんだがな。

全然そんなことはなかった…どころか。

可愛げがあると言うか…いじらしいと言うか。

歓迎したかった、仲良くしたかったのだと言ってる相手を、怒ることは出来ない。

憎むに憎めないんだが…俺はどうしたら良いんだ?

「…あのな、歓迎なら言葉だけで充分だから。慣れないことしなくて良いから」

この箱入りなお嬢さんを見たところ、外に出て買い物することに慣れている、とはとても思えない。

花を用意しようと思って、公園行って花びら拾ってくるくらいなんだから。

花屋へ行けよ。

「言葉?言葉だけで良いの?」

「良いよ」

何なら、その歓迎の気持ちだけで充分だ。

邪魔者扱いされてもおかしくない、って思ってたのに。

「桜の花は?いっそ、枝を折ってきたら良いかなって思ったんだけど」

「それはやめろ」

やらなくて良かった。危ないところだった。

桜の枝を折るだなんて、大罪だぞ。

花びら拾ってくるくらいで我慢してくれ。

「見たかったら、普通に花見に行くよ」

「それだったら、学校の近くにある自然公園が良いよ」

自然公園?

「花びらも、そこで拾ってきたんだー」

へぇ。

ここらで有名(?)な、花見スポットであるらしい。

「今日行ったら、もう満開だった」

そうなのか。

花びら拾ってくるんじゃなくて、その情報だけを教えて欲しかったな。

余計な掃除の手間も省けただろうに。

「折ってこようか?枝」

「やめろ」

しなくて良いからな。絶対。

「歓迎してくれるのは有り難いけど、言葉だけにしてくれ。な?それだけで嬉しいから」

「うん、分かったー」

…本当に分かったんだよな?

ちょっと目を離したら、また突拍子もないことをするんじゃないかと心配だよ。
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