アンハッピー・ウエディング〜前編〜
それじゃあ…。

「乙無は?何か嫌いなものある?」

「ありますよ」

へぇ、あるんだ。意外。

「何が嫌いなんだ?」

「僕が一番嫌いなのは、聖神ルデスの巫女…」

「あー、はいはい。そういうのは良いから真面目に答えてくれ」

真面目に聞いてるんだぞ、俺は。

誰が中二病発言をしろと言った。

「失礼な。僕は真面目ですよ」

「今、食べ物の話してんだよ。食べ物で嫌いなものは?」

「そうですね…。強いて言うなら、生肉ですね」

…生肉?

…生魚じゃなくて?生肉?

「生肉は食べないだろ?」

「ほら、たまにあるじゃないですか。馬刺しとか。ユッケとかレバ刺しとか。あれです」

あぁ、成程。その説明で分かった。

それで生肉が嫌いってことね。

「気持ち悪くて、とてもじゃないけど喉を通りませんね」

その気持ちは分かる。

「悠理さんは食べられるんですか?生肉」

「さぁ…。食べたことないから分からん」

何処で食べられるの?生肉って。

焼肉屋とか?居酒屋とか?

いずれにしても、俺はまだ人生で生肉食べたことないから、どんな味がするのか分からない。

でも、気持ち悪いと思う気持ちは理解出來る。

俺も無理かもしれないな。

「雛堂は?生肉食べたことある?」

「自分もねーよ。馬刺しとかユッケなんて高級料理、お目にかかったこともないね」

一緒、一緒。

食べる機会があったとしても、食べる勇気があるかどうか。

「味云々じゃなくて、なんか菌の方が心配じゃね?ほら、何とか菌ってのがいるんだろ?」

「あー…。たまにニュースになってるよな」

何処そこのお店で提供された生肉を食べて、お客さんが体調を崩して入院しました…とか。

サルモネラ菌?カンピロバクター?そんな名前だったよな。

「何なら自分、ステーキだって、中までしっかり火を通してないと気持ち悪いって思うもん」

「分かる」

レアが美味しいと言われても、やっぱり赤身が見えてたら気持ち悪いよ。

貧乏舌だしな、俺。

そうか…。乙無は生肉が苦手なのか。

多分俺も食べられないと思うから、一緒だな。

「他にはないのか?嫌いな食べ物」

「そうですね…。特には思いつきませんね」

偉いな。

生肉なんて食べる機会は滅多にないんだし、実質好き嫌いはありませんってことだ。

ニンジンでさえ、星型でないと食べられない寿々花お嬢さんも見習って欲しい。

「それにしても、どうして突然そんなことを聞くんですか?」

と、乙無が聞いてきた。

…それは…。

…まぁ、話しても大丈夫かな。

はっきりとは言えないから、ちょいちょい言葉を濁す感じで…。
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