アンハッピー・ウエディング〜前編〜
俺は、頭の中で作り話を考えた。

「えーっと…。知り合いが今度、フレンチ料理を食べに行くらしいんだけど」

「おっ。星見の兄さんのお姉ちゃんの話か」

…知り合いって言ったのに、一瞬でバレたんだけど。

「…まぁ、そんなところだよ」

「まーたお姉ちゃんの話か。星見の兄さんは本当シスコンだなー」

うるせぇ。放っとけ。

大体、姉じゃねーっての。

「好き嫌いがめちゃくちゃ多いから、出された料理を食べられないかもしれないって心配してるんだ」

「ほーん。贅沢な悩みだなー」

…まぁ、そうだな。

「お店のランクにも寄りますけど…。ある程度お高いお店なら、いっそ恥を忍んで、あらかじめ食べられない食材を伝えておいたらどうですか?」

と、乙無が提案した。

「そうしたら、お姉さんだけ嫌いな食べ物を使ってない別のメニューに変えてくれると思いますけど」

非常に現実的な解決策だな。

確かに、レストランに食べに行くんだったら、そうしてもらうんだけど。

でもレストランは口実で、実際は学校の調理実習だからな。

寿々花さんだけ特別メニューを、という訳にはいかない。

どう言い訳したものか…。

「それは…考えたけど、でも周りの人は普通のメニューを食べてるのに、自分だけ違うものを食べてたら悪目立ちするだろ?」

「そうですか?最近は食物アレルギーのこともありますし、一人だけ違うものを食べていても、さほど目立たないと思いますけど」

「そ、それは…。でも…アレルギーじゃなくてただの好き嫌いだから」

アレルギーのせいで食べられないなら、それは食べられなくても仕方ないんだけどな。

でもアレルギーじゃないから。ただの好き嫌いだから。

乱切りや千切りだと無理だけど、星型にすれば、ニンジンだって食べられる訳だしな。

昨日は盛大にリバースしていた、きのこのソテーだって。

シイタケをこっそり微塵切りにしてハンバーグに混ぜたら、気づかずに普通に食べてたし。

そのせいで、特に体調が悪くなった…とかもない。

やっぱり、ただの好き嫌いなんだと思われる。

「ふむ…。確かに、自分だけ違うものを食べていたら目立つのは分かりますけど…。でも、残すよりマシでは?」

「それは…そうなんだけど…」

「まぁ、そういうサービスをお店側がしてくれるとも限りませんし、別料金を請求されても面倒ですもんね」

本当はレストランじゃなくて、調理実習だから。

メニューを変えてもらうってことは出来ないんだ。残念ながら。

「難しく考えなくても、普通に鼻摘んで食えば?」

雛堂の回答は、実にシンプル。

俺も最初はそう言ったよ。

「嫌いなものが過ぎて、それだと食事が始まってから終わるまで、ずっと鼻摘んでなきゃいけなくなるな」

「マジかよ。そんなに多いの?」

好き嫌いが多いって言うか。

今回の調理実習のメニューが、特別寿々花さんの嫌いなものばっかりなんだよ。

「雛堂だって、納豆炒飯に納豆サラダ、納豆の味噌汁と納豆炒めの献立が出てきたら、吐きそうになるだろ?」

「うぇっ。地獄みたいな納豆定食だな。キモッ!絶対無理だわ」

俺は美味しそうだと思うけどな。納豆定食。

でも、寿々花さんにとってはまさに、その状態なんだよ。
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