アンハッピー・ウエディング〜前編〜
さて、そんなことがあった翌日。

この家に来て、三日目の朝である。

今朝の俺は、いつもより早めに起きた。

何の為にか、って?

キッチンに立つ為だよ。とある目的の為にな。

まぁ、大した目的じゃないけど。

朝からテキパキ動いていると、そこに。

「おはよー」

寝癖で髪の毛が跳ねたお嬢さんが、大あくびをしながら降りてきた。

見覚えのある格好だと思ったら、俺の中学の時のジャージだった。

中学の時とはいえ、男モノのジャージのせいか、全体的にぶかぶかだな。

でもまぁ、ぴちぴちのジャージよりマシか。

昨日に比べたら、今日は割と素直に起きてきたな。

早く目が覚めたのか?

「おはよう。今日は早いんだな」

「うん。そんなに長い夢じゃなかったの」

夢?

「幽霊とお喋りする夢見たんだー」

怖っ。なんて夢見てんだ。

しかし、幽霊の夢を見た割には…寝覚めの良さそうな顔をしている。

「怖くなかったのか?」

「うん。全然怖くなかったよ」

そうなのか。

意外とお嬢さんは、ホラー耐性有りのタイプ…。

「だってその幽霊、すっごく良い幽霊でね。死んだらハネムーンに行こうねって約束したんだよ」

ホラーな夢かと思ったが、まさかのコメディー系だった。

そりゃ怖くねぇわ。何だよ、死んだらハネムーンって。

「昨日…厳密には一昨日か。一昨日は魔法使いで、昨日は幽霊…。なかなかハチャメチャな夢が続くな」

「悠理君は昨日、どんな夢見たの?」

俺?

俺が昨日見た夢って言ったら…。 

「ろくな夢じゃなかったけど…聞くか?」

「うん、聞きたい」

そうか。じゃあ教えてやるよ。

「部屋中に大量の桜の花びらが降ってきて、花びらに溺れてもがいてる夢だった」

正直、あれは悪夢だったよ。

十中八九、昨日の昼間のアレのせいだな。

それなのに、俺がそんな悪夢を見る原因を作った、当のお嬢さんは。

「悠理君も、なかなか面白い夢だったんだねー」

あっけらかんとしてそう言った。

これの何処が面白い夢だよ。どう考えても悪夢じゃん。

思わず寝汗かいて、飛び起きたわ。夢で良かったと胸を撫で下ろした。

で、そのまままた二度寝した。
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