アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「そこで、すず…いや…姉の好き嫌いを何とか克服させようと思って、昨日から頑張ってるんだけど…」

「…上手く行かなかったんですね?」

「…盛大にリバースして終わったよ」

「おぉ…。それは壮絶だな…」

全くだよ。

「どうやったの?」

「え?いや…。だから、その嫌いなものを調理して出したんだけど…」

俺は、昨日作ったメニューのことを二人に話して聞かせた。

すると。

「うへぁ、それは無理が過ぎるってもんだぜ。星見の兄さん!」

「野菜が苦手な人に、野菜炒めを出すって…。ハードル高過ぎませんか?」

雛堂と乙無は、この反応だった。

…やっぱり?

「どうせ食わず嫌いなんだから、多少強引でも、食べさせてみたら治るかと思って…」

「強引にも程がありますよ。いくらなんでも荒療治が過ぎるでしょう」

「そ、そうか…」

乙無は、呆れたように俺を見ていた。

乙無にここまで言われるとは…。俺、余程強引なことをしてしまったんだな。

何だか、寿々花さんに申し訳ない。

更に、乙無だけでなく。

「星見の兄さんはアレだな。自転車の補助輪が外れない子に、無理矢理ママチャリに乗せて走らせるタイプだな」

雛堂まで。

「あるいは、泳げない子を無理矢理プールのど真ん中の深いところに突き落とすタイプだな」

「そ、そんなことは…」

「でも、それくらい荒療治してんぜ?」

「…」

…本当済みません。

誓って言うが、そんなつもりはなかったんだ。

「そんなことされたら、好き嫌い克服するどころか、余計に嫌いになるだろ」

おっしゃる通り。

分かった。俺が悪かった。全面的に俺が悪かった。

雛堂と乙無にここまで言わせたのだ。

俺はとんでもなく間違った方法で、寿々花さんの好き嫌いを克服させようとしたらしいな。

結果、寿々花さんの気分を悪くして、自信を失わせる羽目になった。

俺が間違ってた。

俺だって、生牡蠣を克服する為だからと言って、テーブルいっぱいに生牡蠣を並べられて。

無理矢理口の中に突っ込まれたら、そりゃ気持ち悪くて吐くわ。

好きになるどころか、余計見たくもないレベルで嫌いになりそう。

「じゃあ…どうしたら良い?どうしたら調理実習を乗り切れ、」

「へ?調理実習?」

しまった。口が滑った。

「ど、どうやったら好き嫌いを克服出来ると思う?」

「…ふーむ。そうだなー…」

「そうですね…」

雛堂と乙無は、揃って頭を悩ませた。

「究極的に言えば、やはり食べて克服するしかないと思いますけど…。悠理さんのやり方は強引過ぎますからね」

「…悪かったよ」

「定番だとやっぱり、すり下ろしたり微塵切りにして食べてもらう、とか?小さく切れば食べやすくなるのでは?」

実に正論だな。

誰でも思いつきそうな方法だが、それだけに確実だ。

「それは大丈夫なんだよ。すり下ろしてハンバーグに混ぜたことあるけど、気づかずに食ってた」

「成程。じゃあ、まんざら絶対に食べられないって訳じゃないんですね」

そうなんだよ。

だからこそ、俺もあんな無理な方法で克服させようとしてしまったんだ。

「じゃあ、そこから少しずつ大きくしていっては?」

「…大きく?」

「例えばニンジンだったら、すり下ろしたものは食べられるんだから、次は微塵切りにして。微塵切りが食べられたら、次は細い千切りにして。千切りが食べられたら、小さめのいちょう切り…とか」

成程。段々切り方を大きくしていく訳ね。

その手は使えるかもしれない。
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