アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「そうやって段階を踏んでいけば、いつの間にか乱切りでも食べられるようになるかもしれませんよ」

とのこと。

いつかは、星型以外でもニンジンを食べられるようになるかもしれないな。

同じ理屈で、他の野菜も同じように克服出来ないだろうか。

きのこのすり下ろし…はなかなか出来ないけど、微塵切りにするくらいなら。

「良い考えかもな…」

「あとは…。自分で育ててみる、自分で作ってみるという方法もあるそうですよ」

とのこと。

自分で作る…のは分かるけど、育てる?

「どういうことだよ?」

「誰しも、自分で作ったものなら、文句も言えないでしょう?」

まぁ、そうだな。

自分で作った料理だったら、多少失敗しても「まぁ良いや」で食べることはある。

俺もよくやるよ。茹で卵の殻剥きを失敗したときとかさ。

「更に、その食材を自分で作ってみたら、愛着が湧いて、苦手意識がなくなるらしいですよ」

「食材を…自分で?」

「えぇ。例えば大也さんみたいにトマトが嫌いな人なら、自宅の庭でミニトマトを植えて育ててみる、とか」

あぁ、成程。

自分で植えて水をやって、毎日世話をしていれば。

嫌いな食べ物でも、愛着が湧いて食べられるようになるかも、ってことな?

やってみるか。幸い、我が家の庭は無駄に広い。

寿々花さんの嫌いなピーマンやナスを植えて、自分で栽培させてみる。

意外とハマるかもしれないな。

何より、スーパーに買いに行かなくても、自宅の庭でピーマンが穫れるなんて最高じゃないか。

…しかし。

「そりゃ良い方法だと思うけどさー。今回は無理じゃね?」

と、雛堂が言った。

「え?」

「だって、その方法って時間かかるだろ?レストランに行くのはいつなんだよ?」

…あっ。

「再来週の月曜日…だって言ってた」

「…じゃあ無理じゃん。間に合わねぇよ」

…そうだった。

最初に言った、微塵切りから、段階的に大きく切って食べさせる方法も。

自分で苗を植えて育てて、収穫したものを自分で調理する方法も。

いずれも、長期的に好き嫌いを克服する方法だ。

とてもじゃないけど、調理実習の日までには間に合わない。

そう…時間がないんだよな、今回は。時間が…。

「確かに時間はかかりますけど…。いきなり突然好き嫌いを克服する、魔法の方法なんてありませんよ」

と、乙無が正論を述べた。

「そんな一瞬で克服出来るなら、そもそも嫌いなったりはしないでしょう」

「…そうだな…」

あんたの言う通りだよ。言う通りなんだけど。

とりあえず、目先の調理実習の日を乗り越える為の努力が必要なんだよ。

何か良い方法…ないもんかなぁ。

すると。

「味付けを変えてみる、ってどう?」

今度は、雛堂からそのような提案が飛び出してきた。
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