アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「ねぇ、それよりも。悠理君」

「あ?何だよ」

俺の悪夢より大切なことが、他に何かあるのか。

「何やってるの?朝から」 
 
…あぁ。

そういえばそうだった。

「朝飯と…それから、昼飯の弁当も作ってるんだよ」

今朝、俺が早起きしたのはこれが理由だ。

早く起きて、昼の弁当も作ろうと思って。

「弁当…。お弁当?何でお弁当作るの?」

よく聞いてくれた。

「花見だよ。昨日言ってたろ?自然公園の桜が満開だって」

「うん」

「だから、折角だし今日見てこようと思って」

本当は、引っ越しの荷物片付けなきゃいけないんだが…。

ちょっとくらい、花見に時間使っても良いんじゃないかと思って。

だって、ほら、桜の時期ってあっという間だし。

今満開なんだったら、あと数日もしたら葉桜になってるだろ?

咲いてるうちに見ないと。

今日は忙しいから明日にしてください、は通用しないからな。桜って奴は。

一日ピークを過ぎただけで、残念なことになる。

それに、時間的な余裕も関係している。

今は春休みだから、日中は比較的自由が利くんだけど。

春休みが終わって新学期になったら、今より更に時間がなくなるだろう?

学校行きながら、家事全般こなさなきゃならない訳で…。

のんびりしていられるのは、遊んでいられるのは今だけ。

だったら、今のうちに少しでも遊んでおこうかと思って。

俺だって、ずっと働き詰めだと気が滅入るしな。

花見して、少し英気を養ってくるよ。

手作りの弁当でも持って、お嬢さんおすすめの自然公園とやらで、花見をするつもりで。

その為に早起きして、こうして弁当作ってるって訳だ。

ちなみに、弁当の中身はサンドイッチである。

折角なのでたくさん作って、朝飯にも食べようと思ったのだ。

昨日、食パン買ってきておいて良かった。

「お花見、お花見…。自然公園に?」

「そう、そのつもりだ」

「ほぇー。そっか、お花見…」

「心配しなくても、あんたの分も弁当は作っておくから。好きなときに食べてくれ」

俺が家にいないからって、またいい加減なものを食べないように。

ちゃんと、お嬢さんの弁当も作っておくつもりだ。

さすがに、弁当そっちのけでカップ麺に夢中になる…ってことはないだろう。多分。

カップ麺食べたいなら食べても良いけど、俺の弁当を先に食べてからにしてくれ。

「はい、これあんたの分の弁当な」

俺は、作ったばかりのサンドイッチと、数種類のおかずを詰めたランチボックスを手渡した。

このランチボックスも、昨日買ってきたものだ。

「…お弁当…」
 
お嬢さんは、サンドイッチの入ったランチボックスをじーっと眺めていた。

…何だ。弁当なんて貧乏臭い、と思ってるのか?

良いじゃん、弁当。なぁ?結構美味しいもんだよ。

外で食べるのも良いもんだぞ。

しかし、お嬢さんが言いたいのはそういうことではなかったらしく。

「悠理君…一人で行くの?」

俺にとっては、意外な質問だった。
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