アンハッピー・ウエディング〜前編〜
そして、その日の放課後。

帰宅すると、またしても。

「うわっ、びっくりした」

「…」

玄関先に、寿々花お嬢さんがしゃがみ込んで、ずーんと沈んでいた。

…この際、落ち込むのは良いけどさ。

玄関先で落ち込むの、やめてくれないか?

帰ってきた俺がびっくりするだろ。

「ど、どうした?今日は何に落ち込んでるんだ」

無事に調理実習は終わったんだろう?

すると。

「…その場で皆で食べると思ってたのに、全然食べなかった…。一年生の教室に持っていったよ」

と、寿々花さんがボソボソと答えた。

あ、そうなんだ…。

小花衣先輩は旧校舎に持ってきたけど、寿々花さんの所属していたグループは、新校舎の一年生に試食を頼んだらしい。

他の人に食べてもらって、感想を言ってもらうのが今回の実習の趣旨だって、小花衣先輩言ってたもんな。

「…聞いたよ…その話は」

「何だか私、勘違いしてたみたい。あんなに悠理君に協力してもらって、たくさん頑張ったのに…」

「…」

「…全部無駄だったなんて…」

それで落ち込んでるのか?

まぁ、気持ちは分かるけどさ…。

「全部無駄だった、ってことはないだろ」

俺は玄関先にしゃがんで、寿々花さんの顔を覗き込むようにして言った。

「好き嫌いを克服しようと頑張ってた、寿々花さんの努力は無駄じゃない。お陰で俺は今度から、ニンジンをいちいち星型にしなくても済むんだからな」

これだけでも、俺にとってはかなり助かるんだからな。

好き嫌いが少しでも減るなら、それに越したことはない。

「だから、そんなに落ち込むなよ」

「…悠理君…」

「ほら、さっさと立てって。今日はオムライス食べるんだろ?ちゃんと材料買ってきたから」

俺がそう言うと、寿々花さんは落ち込んでいた顔を明るくした。

よしよし。チョロいチョロい。

「昨日まで我慢してた分、今日は思いっきり食べろよ」

「うん。私、特大オムライス食べたい」

「はいはい、特大な」

リクエストにお答えして、今日は寿々花さんの好きなオムライスを、特大サイズで用意することにしよう。
< 356 / 505 >

この作品をシェア

pagetop