アンハッピー・ウエディング〜前編〜

…え。

「一人でって…。一人だろ？他に誰と行くんだ…？」

俺、まだこの土地に来たばかりで、友達の一人もいないし。

母は電車の距離なんだから、花見くらいで呼びつける訳にもいかないし。

他に、誰と…。

「私も一緒に行ったら、駄目？」

もじもじと、ちょっと戸惑ったような様子で。

お嬢さんは、花見に同行することを希望。

…何だ？その態度は…。

…嫌とは言えない雰囲気にされてる気がする。

卑怯だろ、それは。

「悠理君が一人で行きたいなら、仕方ない。諦めるよ」

「いや、別に…。…一緒に来たいなら、来ても良いけど」

別に、断りづらいから同行を許した訳じゃない。

お嬢さんも花見に行きたいなら、一緒に来てもらっても構わない。

どうせ、弁当を作る手間は変わらないんだし。
　
そうだ。自然公園までの道案内もしてもらえるしな。

「ただ、あんたは昨日花びら集めに行ったから、もう見たんだと…」

「昨日は昨日、今日は今日だよ」

何？その理屈。

「あ、そう…。まぁ、良いよ」

「本当？本当に良いの？一緒に行っても良い？」

まるで、休みの日に動物園に連れて行ってもらうことが決まった子供のような…そんなはしゃぎっぷり。

たかだか、近場の公園の花見なのに。

あんた、無月院家のお嬢様だろ？桜の名所なんて、これまで何度も訪れた経験があるだろうに。

…まぁ、本人がそうしたいって言ってるんだから、別に良いか。好きにさせれば。

「そうと決まれば、早く着替えてこいよ。朝飯食べてから行こうぜ」

ちょっと早めに行って…場所取りもしないとな。

その為に早起きしたんだし。

「うん、着替えるー」

「おま、ちょ、馬鹿。俺の目の前で脱ぐなよ！」

あろうことかこのお嬢さん、俺の前で平気でジャージを脱ぎ始めた。

一人暮らしのときの癖が抜けてない。

俺は慌てて両手で目を塞ぎ、何も見えなかったことにした。

今度から、着替えは自分の部屋で済ませて降りてきてくれ。頼むから。な？