アンハッピー・ウエディング〜前編〜
およそ一時間後。

「よーし。寿々花さん、晩ご飯出来たぞ」

食卓を整えてから、リビングに向かって声を掛けると。

「わーい。良い匂いだ〜」

お絵描きに熱中していた寿々花さんだったが、俺が声を掛けるなり、クレヨンを放り出してやって来た。

呼んだらすぐ来てくれるのは有り難いんだけど、片付けてから来いよ。

どうやら、ホラー映画のDVDのパッケージを見ながら、映画に出てくる化け物の似顔絵を描いていたらしい。

…何故化け物の似顔絵?

好きなもの描いて良いけど、冷蔵庫の化け物の隣に俺を描くのはやめてくれよ。 

「悠理君、今日のご飯はなぁに?」

「今日はハンバーグだよ」

しかも、普通のハンバーグじゃないぞ。

中にチーズを入れた、チーズインハンバーグだ。

更にそのハンバーグの上に、目玉焼きを乗せるという贅沢をしてみた。

玉子も安かったんだよ。千円以上お買い上げでお一人様100円でさ。

「凄い。贅沢だね。とっても美味しそう」

子供舌の寿々花お嬢さんは、目をキラキラさせていた。

この顔を見ると、頑張って挽き肉捏ねた甲斐があるよなーって思う。

「こっちは?これはなぁに?」

と、小鉢に入れた漬け物を指差す寿々花さん。

「糠漬けだよ。大根の葉っぱの」

「出た。悠理君お得意のお漬物だ」

得意って言うか。まぁ得意だけど。

糠漬けと言えば、代表格はきゅうりやニンジン、大根の白い部分なんだが。

大根の葉っぱを漬けても、結構美味しいもんだぞ。

捨てるの勿体ないだろ?大根の葉っぱ。

根が貧乏性だからさ。捨てたことないんだよ。

味噌汁に入れたり、こうして糠漬けにしたり。

俺はまだやったことないけど、ミョウガやセロリを漬けても美味しいらしい。

ただ、ちょっと癖が強そうだから、子供舌の寿々花さんにはハードルが高いかもな。

「いただきまーす」

「はい、どうぞ」

さて、じゃあ俺も座って食べようかな、と。

思った、その時だった。

狙い澄ましたかのようなタイミングで、インターホンが鳴らされた。

…誰だよ。こんな時間に。

今から食べようってときに。

仕方ない。無視する訳にもいかないし、出るか。

「先に食べててくれ。ちょっと出てくる」

「うん。行ってらっしゃい」

寿々花さんに断ってから、俺は呼び出しに応じて玄関に向かった。

「はい、何か御用です…か?」

「…」

玄関先には、仏頂面をした青年が立っていた。

…えーっと。

…どちら様?
< 360 / 505 >

この作品をシェア

pagetop