アンハッピー・ウエディング〜前編〜
てっきり、近所の人が回覧板でも持ってきたのかと思ったのに。

近所じゃ見ない顔…だよな?

天パ頭のその男は、不躾にじろじろと俺を見つめていた。

まるで、値踏みでもするかのように。

な、何なんだこの人…?

「えぇと…。どちら様で?」

俺がそう尋ねると、見知らぬ青年が口を開いた。

「…∇≯⊕∇÷?」

…!?

今…何て言った?

なんか言葉を発したんだと思うけど、何言ってんのか聞き取れなかった。

日本語じゃないのは確かである。

えっと、もしかして外人?

いや、それにしては普通の…日本人っぽい顔してるけど。

髪だって、天パだけど、普通に黒髪だし…。

「∝≫≤ⁿ∷∑∌?」

なおも、その男は何かを喋っていたが。

ごめん。俺にはよく聞き取れないわ。

英語のリスニングテストでさえ苦手なのに。

「えーっと…。日本語でお願い出来ます?」

俺が言ってること、理解出来てるだろうか?

日本語で喋ってくださいって、何て言えば良いんだっけ。

きゃ、きゃんゆーすぴーくじゃぱにーず?

今の俺の情けない狼狽えっぷりを見たら、学校の英語の先生は泣くだろうなぁ。

日頃の勉強、何の役にも立ってない。

いくら学校で英語の成績が良かろうとも、実践の場で役に立つとは限らないってことだな。

英語を喋れる日本人と英語で会話をするのと。

英語しか喋れない外国人と英語で会話をするのは、難易度が大違いだ。

当たり前なんだけどな。

いざとなったら、寿々花さんを呼んできて通訳してもらおう。

と、思ったが…その必要はなかった。

「…情けないな。英語すらまともに話せないなんて」

呆れたように、その男は流暢な日本語でそう言った。

…。

…喋れるんじゃないかよ、日本語。

だったら、最初から日本語で喋れ。

何で敢えて外国語で話しかけてきてんの?マウント取りか?あ?

「…で、お宅はどちら様ですか」

「それはこっちの台詞だよ」

はぁ?

「何故この家に男がいるんだ?この家は、無月院家の次女、寿々花様の家だと聞いてるんだが」

という言葉で理解した。

この人、寿々花さんの知り合いか。

まぁ、そりゃそうだよな。

俺には、こんな嫌味っぽい知り合いはいない。

俺の知り合いじゃないってことは、寿々花さんの知人なのだろう。

「…何でと言われても…」

「使用人なのか?それともボディーガード?どちらでも良いけど、最低限の教養くらいは身に着けた人間を雇うべきだね」

「…」

何だろう。俺、この人と初対面なのに。

さっきから、凄まじい敵意を感じるんだが。
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