アンハッピー・ウエディング〜前編〜
結局、何なんだ?この人。

初対面の人間相手に、失礼にも程があるだろ。

素で馬鹿にされてる気がする。

なんか鬱陶しくなってきたから、このまま玄関のドア、閉めても良いだろうか。

しかし、そうは行かなかった。

「とりあえず、お邪魔するよ」

その男は、無遠慮に家の中に押し掛けてきた。

マジで?入ってくんの?

「え、いや、ちょっと…」

「寿々花様はご在宅なんだろう?」

やっぱり寿々花さんに用事があるのか。

それは良いけど、いきなり家の中に押し掛けてくんの?

せめてアポイントメントを取ってからにしてくれよ。

来客があるなんて思ってなかったから、今、家の中…。

「…何だ、これ?」

…言わんこっちゃない。

押し掛け天パ野郎は、まず最初にリビングを見て立ち尽くしていた。

リビングの床には、取り込んだまま放置している洗濯物の山。

テーブルの上には、寿々花さんのクレヨンとスケッチブック、そしてホラー映画のDVDが転がっている。

スケッチブックには、化け物の似顔絵が描いてあるしな。

…めちゃくちゃ所帯染みた部屋だなぁ…。

俺にとってはいつもの日常で、何とも思わんけども。

知らない人が見たら、最高にだらしないって言うか…。

…やっぱり、所帯染みてるよな。

更に天パ男は、ダイニングルームにいる寿々花さんに目を向けた。

「…何をやってるんだ?」

「…?…ご飯食べてる」

寿々花さんは、突然の来客に驚くこともなく。

もぐもぐと、チーズインハンバーグを頬張っていた。

「食事中だったのか…。それは失礼」

勝手に家に押し掛けてる時点で、充分失礼だけどな。

「…それよりも」

天パ男は無遠慮にダイニングに入ってきて、食卓の上の料理を見下ろした。

軽蔑したような、馬鹿にしたような目で。

「…何なんだ?この料理は。豚の餌か何か?」

カチン。

「違うよ。悠理君が作ってくれたの」

と、寿々花さんが答えた。

「悠理君?…誰だよ?」

「悠理君は悠理君だよ」

…それは答えになってないだろ。

「もしかして、この使用人のこと?」

「使用人…?悠理君は使用人じゃないよ。私のお友達なの」

よく言ってくれた。寿々花さん。

そりゃ、実質使用人みたいなものだけどさ。別に雇用関係がある訳じゃないし。

「…友達?この男が…?…まさか」

「…何だよ」

「あぁ、成程そういうこと…」

何を勝手に納得してんだよ。

しかも、小馬鹿にしたような口調で。

「この男が、僕の代わりなのか。新しいフィアンセが決まったとは聞いていたけど、まさかこんな冴えない男だとは…」

…はぁ?
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