アンハッピー・ウエディング〜前編〜
いくら頭が良かろうと、金持ちだろうとイケメンだろうと。

イギリス帰りだろうと、天パだろうと。

こんなクソ生意気な思い上がり坊っちゃんは、誰だって願い下げだろうよ。

女の癖に、だって?

時代は男女平等、ジェンダーフリーだって知らないのか。

そりゃあ、聖青薔薇学園の女子生徒の皆さんは、小花衣先輩みたいな典型的な「お嬢様」が普通の感覚なんだろう。

料理が出来て裁縫が出来て、お花や楽器が趣味で。

そんな「お嬢様」を期待したんだろう。

俺だって最初は、そんなイメージだったけどさ。

実際蓋を開けてみると、全く違っていた。

料理の腕は壊滅的、裁縫は針を持ったこともない。

趣味はホラー映画観賞で、シャボン玉の玩具で日が暮れるまで遊んでる。

未だに寝間着は俺のお古ジャージだし、手作りの糠床で漬けた糠漬けを喜んで食べてる。

そんな、お嬢様らしからぬお嬢様だ。

でも、それの何が悪いって言うんだ?

あんたの「お嬢様」のイメージ像を、勝手に寿々花さんに押し付けてんじゃねぇよ。

何様のつもりだ。円城寺家のお坊ちゃまのつもりか?

とっととイギリスに帰れ。

いや、こんな奴に国土を侵されたら、イギリス人にも迷惑だ。

自分の家に帰れ。

「言いたいことを言ったなら、さっさと帰ってくれないか」

大根の葉っぱの漬け物の美味しさも分からないような奴に、偉そうなこと言われる筋合いはない。

生憎俺は、いくらあんたがクソ生意気に扱き下ろそうとも、こんな寿々花さんで充分満足してるからな。

そんなに小馬鹿にするほど寿々花さんが嫌いなら、わざわざ会いに来るんじゃねぇ。

「随分な物言いじゃないか。自分の立場が分かってないのか?」

「知るかよ。あんたが何者だろうが、俺にはどうでも良い」

とにかく、大変失礼な奴だってことは間違いない。

初対面でここまで人を馬鹿にし、ついでにチーズインハンバーグと糠漬けを馬鹿にし。

そして、寿々花さんを馬鹿にした。

マジでぶっ飛ばしてやろうかと思ってる。本気で。

「それとも、不法侵入で警察呼んでわろうか?」

「…ふん」

俺の脅しを、鼻で笑い飛ばし。

「よりによって分家のクズなんかと、仲良しこよししているとは…。本当に情けないね」

まだ言うか。

いい加減鬱陶しい。

「態度を改めるつもりがないから、僕も考え直すつもりはない。帰るよ」

「考え直さなくても良いから、さっさと帰れ」

「全く。無礼な男だ」

その言葉、そっくりそのままあんたに返してやる。

「あぁ、そうだ。これ、イギリスのお土産だよ。君みたいな貧乏人には味が分からないかもしれないけど」

と言って、円城寺は持参したらしいお土産の袋をテーブルに置いた。

要らねーよ、馬鹿。持って帰れ。

「それじゃ、また訪ねてくるよ」

「二度と来んな、馬鹿」

玄関、塩撒いといてやるからな。
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