アンハッピー・ウエディング〜前編〜
言いたいことだけ言って、円城寺雷人は帰っていった。

あー、ムカつく。何だったんだ今の。

「ったく…。お陰で料理が冷めたよ」

折角のハンバーグが、すっかり冷めてしまった。

「仕方ない。ちょっと、温め直してくるよ」

「…」

「…寿々花さん?」

寿々花お嬢さんは、箸を置いて固まっていた。

…えっと、大丈夫か?

「あいつのせいで、食欲失せたか?」

「…ううん。そうじゃなくて」

…じゃなくて?

「…悠理君、あのね…。…えっと、ごめんなさい」

何故か謝られた。

…意味が分からないんだけど?

「何で謝るんだよ。あんたは何も悪いことしてないだろ?」

悪いのは、あの円城寺の方だっつーの。

今年会った人間の中で、間違いなく一番不愉快な奴だったな。

今年どころか、ここ5年くらいで一番と言っても過言ではない。

それくらい不愉快な奴だった。

あんな奴をイギリスに留学させて、日本国民として申し訳ない。

「だって…私、今日まで…悠理君に、あの人のこと…悠理君の他に婚約者がいたってこと、黙ってた」

「…あー…」

「びっくりした…よね?」

…まぁ、びっくりはしたな。

あまりにも突然やって来て、しかも突然元婚約者だと告白して…。

でも、大したことじゃないよ。

「驚いたけど。でも、あくまでもあいつは『元』婚約者だろ?今は関係ない」

「…」

「婚約破棄したんなら、あいつはもう赤の他人だよ。何を言われても、気にする必要はないだろ」

随分失礼なことを、言いたい放題言ってくれたけど。

好きに言わせとけ。所詮奴は他人だ。

寿々花さんのことを、「無月院家の次女」としてしか見てない。

ああいう手合いの考えることは、よく分かる。

奴らは寿々花さん個人じゃなくて、無月院家という名前のブランドが欲しいだけだ。

「…最初はね、あの人と結婚する予定だったんだって。それで、何度か会ったり話したり…お見合いみたいなことしたんだけど」

「…」

「趣味も好みも価値観も、何もかもが合わなくて…」

…だろうな。

俺も人のことは言えないけど、寿々花さんも相当変わってるもんなぁ…。

で、円城寺は円城寺で、少女漫画に出てくるような典型的な「お嬢様」を求めている。

そうそういるかっての。現実に。そんなお嬢様。

小花衣先輩でも捕まえてくるんだな。

「それで婚約破棄ってことになって…。その後…」

「…俺にお鉢が回ってきた訳だな?」

「…うん」

ふーん…。

それが、俺が寿々花さんの婚約者に選ばれた経緯だったのか…。

果たして、母さんはこのことを知っていたんだろうか?

知っていたとしても知らなかったとしても、本家の決定には逆らえなかっただろうけど。
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