アンハッピー・ウエディング〜前編〜
つまり、俺は円城寺の言ってた通り、消去法で選ばれたフィアンセだったって訳だ。

本当は、さっきの円城寺が第一候補だったんだけど。

円城寺のご立派なお眼鏡(笑)に適わなかった為、向こうから婚約破棄…。

分家の中でも、本家に次ぐくらい有力な家柄である円城寺家に断られたら。

さすがの無月院本家ご当主様も、ゴリ押しすることは出来なかったらしい。

円城寺家のご子息様との結婚は諦めて、代わりに俺を宛てがうことで手打ちにした…ってところだろうか。

確かに愉快な話ではないが。

それらは全部、さっきの天パお坊ちゃまと無月院本家当主が決めたことであって…寿々花さん本人の意志ではない。

従って、寿々花さんには何の責任もないのだ。

「隠してた訳じゃないんだけど…。でも、こんなこと言われたら悠理君も嫌かなって思って」

「それで黙ってたのか?さっきの円城寺のこと」

「…うん」

あ、そう…。

「あの人に言わせたら、私は無月院家の娘として出来損ないなんだって…」

「出来損ないって…。寿々花さんの何処が出来損ないだよ?充分頑張ってるだろ」

あいつの勝手なお嬢様の理想像とかけ離れてるから、それで「出来損ないだー」とか言ってるだけだろ。

お嬢様に夢見過ぎなんじゃねぇの。

「だって、私はお姉様ほど優秀じゃないし…」

「当たり前だろ?姉妹とはいえ、違う人間なんだから。同じ人間が二人もいたら気持ち悪いよ」

「…そんなこと、初めて言われたかも」

そうか。

何も特別なことは言ってない、当たり前のことなんだけどな。

立派な血筋の人は、生まれながらに立派な、特別な人間になれるとでも思い込んでんのかね。

どんな天才の家系にも凡人は生まれるし、凡人の家系に天才が生まれることだってあるし。

そもそも天才だろうと凡人だろうと、健康で幸福な人生を遅れたら、それだけで充分特別なことだと思うけど。

これまで寿々花さんの周りにいた人は、そんな簡単なことさえ分からなかったのかね。

「悠理君は変わってるね」

「あんたに言われたくないけどな、あんまり…」

「…嫌いになった?私のこと…」

「いや、別に…。あんたはあんたのままで良い。特別な人間になる必要はないと思うよ」

少なくとも俺は、寿々花さんに何か特別な人間になって欲しいとは思わない。

大体、俺も大して特別な人間じゃないしな。

やっぱりな、普通が一番尊くて、一番得難いことだと思うよ。

そりゃ、フランス留学だのイギリス留学だの、邪神の眷属(笑)やってる乙無だって立派なもんだと思うけど。

だからって、俺もそうなりたいとは思わない。

…平凡で良くね?

何の取り柄もないって言うけど、人に比べて極端に劣ってるって訳でもなし。

そもそも、誰かと比べたって仕方ないしな。

本人が自分に満足してるなら、それに越したことはないと思う。

なんて思うのは、俺が上昇志向のない凡人だからなのかね。

あー、やだやだ。そんな難しいこと考えてたら、飯が不味くなる。

「さぁ、気を取り直して夕飯食べようぜ。温め直してくるから」

「うん」

こくり、と寿々花さんは嬉しそうに頷いた。

豚の餌w生ゴミwって散々笑われたけどさ。

安いものでも何でも美味しく食べられるなら、それはそれで立派な長所だと思うぞ。

文句言う奴に限って、自分は料理なんか全く出来なかったりするんだよ。

あんな奴の言うことは無視して、俺達は美味しくハンバーグ食べようぜ。
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