アンハッピー・ウエディング〜前編〜
さて、お嬢さんの着替えと朝食が終わってから。

俺はお嬢さんと二人で、弁当片手に自然公園に向かった。

…そういえば。

この家に来て三日目になるが、お嬢さんと一緒に行動するのは、これが初めてだな。

人生の伴侶となった相手なのに、一番最初にすることが花見とは…。

…これって、一般的なのかね?

とても一般的な夫婦とは言えない関係だから、社会の常識なんて俺達には通用しないけど…。

「ふんふーん♪じゃがいも〜♪ほっくほくのおイモ〜♪」

何故かお嬢さんは、この通りとてもご機嫌。

歌いながら歩いていらっしゃる。

歌うのは良いけど、その選曲は何?

じゃがいもの歌…?

「バターをたっぷり〜♪ほっかほかのおイモ〜♪」

…じゃがバターの歌…?

…色々と謎が深まるが、好きにさせておこう。

それより。

「自然公園って、どの辺にあるんだ?」

「私の学校の近くだから…。もう少しだよ、そこの先」

家の近くのバス停から、バスに乗って15分程。 

バスから降りて、更に歩くこと10分。

「ほら、ここ」

「あ、本当だ…」

広い敷地に、ぐるりとフェンスが囲ってあって。

そこにたくさんの桜の木が、ピンク色の大輪の花びらをつけていた。

ようやく、自然公園に到着。
 
バスと徒歩を合わせて、およそ30分程度で到着した。

成程、確かにここなら近いな。

しかも…お嬢さんが桜の名所と勧めるだけあって、結構綺麗じゃないか。

近場に桜の名所があるって良いよな。花見し放題じゃん。羨ましい。

…って、俺も今年からこの近くに住むことになるんだから。

来ようと思ったら、毎年来られるようになった訳だ。

そのくらいの「特典」がないとな。望まない相手と一緒に暮らすんだから。

「早めに出てきたつもりだけど…。結構人、多いな」

他の花見客も、考えることは俺達と同じだったようだ。

早めに家を出てきて、せっせと場所取りに勤しんでいる。
 
これは、もうあんまり良い場所は残ってないかもな。
 
まぁ、俺は別に、そこまで花見の場所にこだわってる訳じゃないから。

多少遠目からでも、見られるんならそれで良いよ。

地元民だしな、俺達。

どうしても見に来たかったら、明日でも来年でも、好きなときに30分程度で来ることが出来る。

むしろ、遠くから遥々来た人に場所を譲ろう、くらいの精神で良いんじゃないか。

「さて、何処に座る?」

「私、あっちが良いー」

「あ、おい待てって。はぐれるなよ」

てこてこ歩いていってしまうお嬢さんを、見失わないように。

俺は、後ろから急いでお嬢さんについていった。
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