アンハッピー・ウエディング〜前編〜
俺は今、雛堂に弁当を要求されているのか。

「…何で俺?」

「だって、星見の兄さんの弁当、いつ見ても美味しそうなんだもん」

そう言ってくれるのは嬉しいけど。

何故、俺が雛堂の為に弁当を作らなければならないのか。

「厚かましい人ですね、大也さんは…」

乙無も、この呆れ顔である。

「良いだろ、たまには!だって自分の家、遠足だろうと受験日だろうと、特別な弁当とか一切なかったからな」

そうなのか?

受験の日はトンカツ弁当、とか定番らしいな。

まぁ俺は裏口入学だから、受験日のトンカツ弁当なんて作ったことないけど…。

でも、遠足の日はちょっと豪華なお弁当だったな。

「行き先がつまんねぇなら、せめて昼飯くらいは楽しみにしたいじゃん!」

その気持ちは分かる。

「なぁ、頼むよ星見の兄さん。材料費は払うから。手間賃も払うからさ」

雛堂がここまで頼んでくるとは。珍しい。

雛堂は普段毎日、割引シールが貼られた菓子パンばかり食べてるからな。

俺がここで断ったら、雛堂は遠足の日でもいつもと同じ、割引シール付きの菓子パンを齧ることになるのだ。

そう思ったら…ちょっと気の毒と言うか。

お弁当くらい、作ってあげてもバチは当たらないよな。

どうせ、当日は自分の分と、寿々花さんの分のお弁当を作らなきゃいけないんだし。

そこに雛堂の分が増えても、まぁ大した手間にはなるまい…多分。

「分かった。良いよ」

「マジか。やったー!」

「あと、お金は要らないからな。別に」

人様から金取れるほどの弁当じゃねーから。

「…あんまり期待するなよ?まだ何作るかも決まってないし…」

「うんうん、大丈夫大丈夫。めっちゃ期待してるから!」

「…」

ごめん。やっぱり断っても良いかな。

…それと。

「一緒に、乙無の分も作ってこようか?」

「僕もですか?」

こうなったら、もう、大盤振る舞いだ。

乙無の分も一緒に作ってくるよ。

「僕は人間じゃないので、食事の必要はないんですが…」

あー、はいはい。そういう設定な。

「でも、悠理さんの手料理は特別美味しいですからね。作ってもらえるのなら有り難いです」

初めからそう言え。

「分かった。じゃあ、作ってくるか…」

「あざーす!星見の兄さん改め、星見の母さんだな!」

「やめろ」

誰が母さんだ。

あんたらみたいな、デカい子供を産んだ覚えはない。
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