アンハッピー・ウエディング〜前編〜
さて、こうして。

来週の遠足の日に、自分の分と寿々花さんの分、雛堂と乙無の分も合わせて。

計4つのお弁当を作ることになってしまった。

やれやれ。遠足の日は早起き確定だな。

前日に、仕込めるものは全部仕込んでおこう。

それはそれとして、弁当を作るなら、弁当に入れるおかずを決めておかないとな…。

雛堂と乙無にリクエストを聞く前に…。






「寿々花さん。来週の遠足の日だけど」

「…?」

「お弁当、何入れて欲しいとか希望はあるか?」

「…!」

放課後、家のテレビでホラー映画鑑賞会をやっていた寿々花さんは。

お弁当と聞くなり、ホラー映画そっちのけで振り向いた。

おー、食いついた食いついた。

「遠足!…遠足だったね。来週」

忘れてたのか? 

俺と一緒だな。

「お弁当作ってくれるの?悠理君が?」

「うん。何でも好きなもの入れてやるよ」

「やったー」

大喜びの寿々花お嬢さんである。

俺の手作り弁当程度で、そんな顔で喜べるのは寿々花さんくらいだよ。

「何でも?何でも良い?」

「まぁ、あんまり手の掛かるものは無理かもしれないけど…。…努力はするよ」

「本当?じゃあ…難しいリクエストをしたら駄目かな」

ほう?

どんな難しいリクエストを思いついたんだ?…和牛A5ランクのステーキとか?

リクエストを求めたのは俺なんだから、とりあえず聞くだけなら聞いてやる。

「何が良いんだ?」

「うんとねー、オムライス」

…いつもの晩飯じゃん。

「オムライスがお弁当に入ってたら、すごーく嬉しいと思うんだー」

「あ、そう…。この間食べたじゃん」

「毎日食べても美味しいよ。悠理君のオムライスは」

…。

褒めてくれるのは嬉しいけど…。

もっと無理難題が出てくるかと思ったのに、まさかのオムライス弁当…。

…普段のお弁当より簡単じゃん。

「もっと何かないのかよ。もっと難しいリクエストは」

それじゃあ作り甲斐がないってもんだよ。

オムライス弁当なんて、普段のお弁当でも作れるじゃん。

「えっ?」

「えっ、じゃなくてさ…。もっと他にないのか?リクエスト…」

「…そうだなー」

しばし、うーんと悩んだ寿々花さんは。

「…ケチャップを」

…ケチャップ?

「オムライスにかけるケチャップを…星の形にしてくれたら、凄く嬉しい」

「…」

散々考えて、出てきたのはそれかよ。

幼稚園児でも、もうちょっと面倒なリクエストをするわ。

唐揚げとか、ハンバーグとか。

しかし、あんた星好きだな。

ニンジンも星型が良いって言ってたし。

「あ、そうだ。卵がふわふわのオムライスだったら、もっと嬉しい」

「はいはい」

あんたに難しいリクエストを期待した、俺が間違ってたよ。

「もっと面倒臭そうな…そう、キャラ弁とか注文されると思ってたのに…」

「…きゃらべん?」

キャラ弁、ご存知ないのか?

かく言う俺も、作ったことはないんだよな。一度も。
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