アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「キャラ弁っていうのは、えーと、ちょっと待てよ」

俺はスマホでキャラ弁を調べ、画像検索した。

おぉ、出てくる出てくる。

「ほら、こんな感じで。キャラクターのお弁当だよ」

「わー、可愛いね」

だろ?

寿々花さんも、こういうお弁当が良いんじゃないかなって。

子供っぽいもの好きだからな。

普段のお弁当も、いつも男っぽいって言うか…。

おかずドーン、白米ドーン、みたいな弁当ばかりだからさ。

まぁ、基本的には昨日の残り物で作るお弁当だから、そうなるのは仕方ないんだけど。

寿々花さんはそんなお弁当でも、いつも美味しいって言って完食してくれる。

そろそろ「飽きたから、もうお弁当要らない」と言い出すんじゃないかと思いながら。

全然そんなこと言い出す気配がない、どころか毎日嬉々としてお弁当持っていってる。

何だか申し訳なくなってきてな。

俺がもっと、お弁当作りのセンスがあったらなぁ。

寿々花さんが好きそうな、こういうキャラ弁とか作ってあげたんだけど。

如何せん、俺もそこまで器用じゃないし。

普段のお弁当作りでは、そこまで手間をかける時間の余裕もないし。

なら、せめて遠足の日くらいは…寿々花さんに、手の込んだお弁当を作ってあげたいと思う。

親心って奴?

親じゃないけどな。

「こういうお弁当、作ってみようか?」

「…でも、食べ物で遊んじゃいけないって悠理君が」

変なところで真面目だな。あんた。

「遊びじゃなくて…これは、こういうお弁当なんだよ」

「そっか。悠理君、出来るの?」

「うっ…。自信はないけど…まぁ、頑張ってみるよ」

今見てる、この画像みたいに綺麗には出来ないと思うけど。

それっぽいものは…少なくとも、ちょっと可愛いくらいのものは作りたい。

ハードル高いなぁ。

「ちなみに、キャラクターのリクエストはあるか?」

作るキャラクターにもよるよな。キャラ弁の難易度って。

この間の、ハムスターランドのハムッキーとか?ハムトーニとか?

「キャラクター…何でも良い?」

「あぁ。寿々花さんの好きなキャラクター。何でも言ってみてくれ」

「じゃあ、そうだなー。…あ、そうだ」

何か思いついたらしい。

寿々花さんは、おもむろに、テーブルの上にあったDVDのパッケージを手に取った。

例の、『イン・ザ・電子レンジ』というホラー映画である。

「このタイトルに載ってるお化けが良い」

「…」

キャラ弁のリクエストが、まさかのホラー映画の化け物。

…そんなキャラ弁リクエストしてくるのは、寿々花さんくらいだよ。

つーか、黒っ…!どうやって黒を再現すれば良いんだ?

「…駄目?やっぱり無理かな?」

「い、いや…」

俺の方からリクエストを聞いたんだから。折角寿々花さんがリクエストをしてくれたんだから。

頑張れ、俺。少なくとも、作ってみもせずに諦めるな。

「…分かった。努力してみるよ…」

何とか…それっぽいものは作ってみるよ。頑張って…。
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