アンハッピー・ウエディング〜前編〜
信じられるか?学校の遠足でこの豪華さ。

豪華客船なんて、乗ったことはおろか、遠目から眺めたこともない。

何より信じられないのは、目の前の寿々花さんが。

こんな素晴らしく豪華で優雅なクルーズ旅行に、あろうことか、俺の手作りキャラ弁を持っていこうとしていることだよ。

却下。却下だ。

「あんた馬鹿かよ?豪華客船のレストランのランチを断って、電子レンジの化け物のキャラ弁を持っていこうとするなんて馬鹿か!?」

「えっ。何でそんな怒るの?」

「怒るわ!公園にピクニックしに行くのとは訳が違うんだぞ…!?」

貴族の舞踏会に、くたくたのジャージを着ていくようなものだ。

恥をかくのは、あんただけじゃ済まないんだぞ。

「却下。とにかく却下だ。船に乗るなら、船のレストランで食べろよ」

俺の弁当なんて、いつでも食べられるだろうが。

でも、豪華客船のランチはその日しか食べられない。

「お弁当なら、またいつでも作ってやるから」

「そんな…。悠理君、お弁当作ってくれるって言ったのに…」

「…」

「楽しみだったのに…」

地味に俺の良心を抉ってくるの、やめてくれない?

俺が悪いんじゃないから。

「船の上で、海の景色見ながら悠理君のお弁当食べたら、きっと凄く美味しいだろうと思ったのに」

「…」

「それでも、レストランで食べなきゃいけないのか…」

しょぼーん、と落ち込む寿々花さん。

…なぁ。

今、完全に俺…悪者になってね?

何で?おかしくね?

普通、レストランで食べる方が良いよな?どう考えても。

「…でも、悠理君が駄目って言うなら、仕方ないよね…」

「…」

「…しょぼーん…」

…何?これ。

俺の罪悪感を煽ってくる感じ。

こんなに落ち込むところ見せられたら、「駄目」とは言えないじゃないか。

…あぁ、もう。どうにでもなれ。

「…分かったよ。作るよ」

観念した俺がそう言うと、寿々花さんは一転、ぱぁっと顔を明るくした。

「本当?良いの?」

「あぁ…良いよ」

「やったー。船の上で悠理君のお弁当…。楽しみだなー」

寿々花さんが我儘言ったんだからな。恥かいても、俺の責任じゃないから。

あぁ、もう考えないようにしよう。

クラスメイトは全員、船内のレストランやブュッフェで優雅なランチを楽しむんだろうに。

一人だけ、デッキで俺の手作り弁当を広げている寿々花さんの姿を想像した。

…やっぱり前代未聞だろ。

でも、寿々花さんがどうしてもそうしたいと言うなら…止めることは出来なかった。
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