アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…比べるまでもないからな。男子部と女子部の扱いの差を。

「…いや、女子部のことは知らないけど、男子部の生徒は違うところに行くんだ」

「違うところ?…何処?ハムスターランドとか?」

だったら良かったんだけどなぁ。

いや、待てよ?動物園なんだから、ハムスターくらいいるんじゃね?

ってことは、実質ハムスターランドみたいなもん…。

…。

…それは苦しいな。さすがに。

「…動物園なんだって」

覚悟を決めて、俺はポツリとそう打ち明けた。

すげー恥ずかしい。この流れで動物園行きます、なんて。

「…動物園?」

こてん、と首を傾げる寿々花さん。

きっと信じられないんだろうな。

去年から聖青薔薇学園女子部にいて、入学オリエンテーション京都旅行に始まり。

遠足では、超高級果物農家や豪華客船クルーズだろ?

それが当たり前の基準になってる寿々花さんにとっては。

近所の動物園なんて、子供の遊び場みたいなもんだよ。

俺だってそう思うもん。

「動物園って…キリンさんとかゾウさんとか、ツチノコとかカッパがいる、あの動物園?」

「お、おう…?どの動物園かは知らないけど…ツチノコとカッパはいないぞ」

「そっか…。…良いなぁ」

は?

今、良いなぁって言った?

「そんな楽しそうなところに行くの?良いなぁ、男子部の人達」 

あんたそんなこと言ったら、学校の先生に怒られるぞ。

豪華客船遠足の為に、一体いくら払ったと思ってるんだ。

俺にはとても、想像がつかない。

そこまでお金をかけて用意した遠足なのに、あろうことか動物園を羨ましがるなんて。

普通逆だろ。

「豪華客船の方が良いだろ?どう考えても」

「だって私、動物園行ったことないんだもん。どんなところなんだろう?」

あー…。うん、成程…。

そうか…。行ったことないなら、憧れる気持ちも分からなくはない…けど。

それにしたって、豪華客船の方が良いだろ。行ったことなくても。

「ウサギとかクラーケンと一緒に遊べるんでしょ?楽しそうだなぁ…」

「クラーケンは…海の生き物だけどな」

遊ばねーよ。冗談じゃねぇ。

「行き先、交換して欲しかった…」

「…」

雛堂が聞いていたら、「この贅沢者め!」って大騒ぎしてただろうな。

「落ち込むなよ。動物園くらい、いつでも行けるだろ」

「でも、行ったことないんだもん」

「…じゃあ、今度一緒に行こうぜ」

そう誘うと、寿々花さんはハッとして顔を上げた。

どうだ。これでちょっと、遠足乗り気になったか?

動物園を羨ましがって、折角のクルーズ遠足を充分楽しめないなんて、勿体ないにも程があるからな。
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